第15ワ いつか訪れる混乱。
勇者レイは、セパールの件について魔王に確認するため、身支度をしていた。
と、言うのは半分正解で、魔王と勝負をするため最後の持ち物確認をしていた。
「鎧よし! マントよし! 回復薬よし! 精霊の指輪よし! よし、これで忘れ物は無いな」
そう言って、自分の姿を鏡で確認した勇者は家を出るため玄関へ向かった。
そして靴を履き、靴紐を結ぼうとしたところで、自分の腰の辺に違和感を感じ急いで部屋へ戻る。
「あっぶねー、一番忘れちゃいけない物忘れるところだった」
そう呟くと、勇者はベットに立て掛けてあった剣を手に取り、腰に差した。
この勇者が腰に差した剣は、別名『
「よし、これで本当に忘れ物は無いな」
そう呟くと、今度こそ本当に出発するため、気を引き締め玄関に向かい靴紐を結んだ。
そして、勇者はドアを開け家を出………ようとしたが、ドアを開けた先に一人の人物が驚いた様子で立っていた。
「! うわ、びっくりしなあ。急に開けないでくれるかな」
「『びっくりしなあ』は、こっちのセリフだよ。何しに来たんだよエノ、こんな朝早くに」
俺は目の前の黒いローブを被り、杖を持ち気怠そうに立っている、如何にも寝不足ですと言った感じで、目の下にクマを作っているチビっ子を知っている。
こいつはエノと言って、魔法使いだ。魔法使いと言っても、そんじょそこらの魔法使いじゃない。
なんせ12歳で魔術師学校を主席で卒業し、既に周りからは大魔導師と言われている。
所謂天才と言うやつだ。
そんなやつがこんな朝に何の用だ? そんな事を思っていると、目の前のチビっ子が口を開いた。
「レイ、今から魔王城に行くんでしょ?」
まあその通りなんだが、何故エノが知っているんだ? というか何しに来た? と色々と疑問が浮かんだ勇者だが、とりあえず質問に答えてやることにした。
「そうだけど、それがどうしたんだ?」
勇者の返答を聞いたエノは、軽い感じで勇者の予想外の言葉を口にした。
「ぼくも連れてってくれないかな?」
「……いやいや、ダメに決まってるだろ。何言ってるんだ? 遊びに行くんじゃないんだぞ?」
いくらエノが大魔導師と言っても見た目はまだ子どもだ。
そんな彼を魔王城なんて危険な場所へは連れて行けない。
しかし、エノは引き下がらない。
「レイ、お願いだ。魔法の研究のため一度魔王に会って、この目で直に魔王の魔法を見たいんだ」
「それでもダメだ。エノを危険には晒せない」
「お願いだよ。魔族の魔法はまだ直に見たことがないんだ、それも魔王ともなれば尚更見れる機会なんてそうそう無いんだ」
なかなか引き下がらないエノ。
普段は、ボーッとしてるクセに、魔法の事になると目の色を変えて行動的になる。
こうなるとエノを説得するのは至難の業なのだ。
エノは、腕を組み何やら考えたまま沈黙している勇者を見て、切り札を切った。
「そうだよね……ダメだよね」
考えを巡らせていた勇者だが、意外にもエノの方から諦めの声が聞こえホッとした。
「うん、ごめんな。エノがもう少し大きくなッ─」
エノは勇者が言い終わる前に声を発した。
そして、その言葉は勇者の思いを揺るがす。
「うん、分かったよ。じゃあ、レイのお母さんにレイが魔王城に行ったって伝えておくね」
勇者は慌てた。
「OK、OK分かった。エノ君、少し落ち着こう。それとこれとは話が別だ」
「ん? どうしてだい?」
「『ん?』じゃねえよ! とぼけた顔しやがって! 俺の母ちゃんが危険だからって魔王討伐に反対なの知ってるだろ!」
「んー? でも、勇者ならそんなの気にしないで魔王を倒しに行くんじゃないのかい?」
目の前で唇に指を当て、首をかしげてるコレがチビっ子じゃなかったら、ぶん殴りたいところだが、そんなことは出来ない。
そして、俺が母親にバレたくないのには理由がある。
俺の母ちゃんは怒ると怖い。いや、本当に怖い。どれくらい怖いかと言うと、その昔、俺が冗談で母ちゃんに『母ちゃんもおばさんになったなー(笑』と、言ったら家に
そんで噂に聞いた話では、昔、父ちゃんと喧嘩したとき町が吹き飛んだらしい。えっ? これ本当? 冗談でしょ? 嘘だよね? 冗談って言って! お願い100ゴールドあげるから!
まあ、そんなんで、絶対にバレてはいけないのだ。
ついこの前だって魔王城に行ったことがバレてドヤされたばかりだ。この短期間でまたバレでもしたら今度は何をされるか想像しただけで震えが止まらない。
エノを何とかして説得しなければ、そう思った勇者は切り札を切る。
「あっ! そうだエノ! そう言えばこの前、俺お菓子を大量に貰ったんだった。ちょうど良かった、魔王城に行ったらいつ帰ってくるか分からないし、エノにあげ─」
エノは手のひらを前に見せ、勇者の言葉を遮った。
「その手は通じないよ」
そう言うとエノは背中に背負っているリュックの中身を見せ続けた。
「この通り、お菓子は持ってきている。その攻撃は対策済みさ」
終わった。もう止める手立てがない。
「……分かった。ただ一つだけ約束してくれ」
「なんだい?」
「危険だと俺が判断したら直ちに連れて帰る。これを了承しない限りは絶対に連れて行けない」
「分かったよ。じゃあお母さんに伝えてくるね」
「よーし! じゃあエノ君! 魔王城にLet's Go!」
こうして勇者とエノは朝日が昇る中、魔王城に旅立った。
──魔王城から北に位置する人間が住む国。
この国はそれなりに大きな国で、南と東に魔族、そして北と西に人間の国と国境を接している。
そんな国の魔族との国境線付近のとある町では最近不審な出来事が起きている。
国境線を警備する兵は夜勤明けの中、眠い目を擦りながら交代を告げるため代わりの兵を起こしに宿舎に向かっていた。
「はあ。ったく、たまには自分で起きてこいよ。また俺が起こしに行かないといけねえのかよ」
もうこれで何回目だ? そんなことを思い男は宿舎に入った。
そして男は仮眠室に入るとベットで横たわっている代わりの兵を蹴る。
「おい! 起きろ! 交代だ!」
「…………」
返事がない。頭にきた男は寝ている兵を乱暴に揺さぶろうと思い手を伸ばした。
と、突然寝ていたはずの兵に腕を捕まれ、ベットの中に引きずれ込まれた。そして口を塞がれ耳もとで
「ようこそ死の世界へ」
その日以来その男を見た者は居なかった。
そしてこういった出来事は人間だけではなく魔族の方でも起こっていた。
しかし、その事を重要視する人物は少ない。何故なら魔族も人間も一人、二人消えたところでよくある亡命か、任務中の殉職と処理するからである。
しかし、コレはそうではない。コレは確実な死であり始まりにすぎないのだ。
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