第14ワ 勇者の住む国。
魔王城より西方に位置する国。ここは人間の王が治める大国である。
街は栄え、治安も良好。もし懸念材料を挙げるとするならば、魔族の領土と国境を接している事ぐらいである。
しかし、それも大した脅威にはならない。決して関係は良好とは言えないが、別に戦争をしている訳でも無ければ、お互い侵略行為をしている訳でも無い。
そして、何よりこの国には勇者が住んでいる。この事実だけで魔族は
そんな国のとある街では、黒髪で端正な顔立ちをした男と、その向かいに座る男が久しぶりの再開を祝し、酒場で酒を酌み交わしていた。
「「カンパーイ!」」
二人は合図と共に、手に持つ木製のグラスをコツンと軽くぶつけあうと、一気にグラスの中の酒を喉に流し込む。
「ッカー! 染み渡るぜ!」
そう言って向かいの男は空になったグラスをテーブルに置き店員に声を掛ける。
「お姉ーさーん、二杯追加で同じの!」
『はーい』
「おい、あんま飲みすぎんなよ? 俺は介抱してやんないからな?」
「大丈夫だって! 俺が酒強いの知ってんだろ」
まあいい、そんな事より目の前にある料理の方が大事だ。シーフードサラダ、そして香ばしい香りが鼻腔を突く肉料理、さんざん迷った挙句俺は、一番近くにある野菜を薄い肉で巻いた料理にフォークを伸ばす。
そして、一口口に放り込めばこれを選んで正解だったと確信に至る。
そんな事を思っていると向かいの男に話しかけられた。
「レイ。お前そう言えば魔王に挑んだらしいじゃねえか、実際どうなんだ魔王の強さってやつは?」
男の質問に勇者レイはばつが悪そうに答えた。
「んー、まあ、強いかな。……多分」
歯切れの悪い回答に男は疑問を口にした。
「なんだよ、多分って。お前戦ったんじゃないのかよ?」
「ん、うん。まあ戦ったけど………そのなんて言うか全力を出す前に強制終了させられたみたいな……」
「はあ? どういう事だソレ?」
もし理由を説明しても誰も理解出来ないだろ。『おっさんに勇者も魔王も歯が立たず戦えませんでした』これを言って信じる奴はまあいない。
「まあ、簡単に言うと逃れられない強制負けイベント的なやつが発生した感じだ」
レイの答えに男はますます頭が混乱した。
「余計意味わかんねえよ! お前何度か魔王に挑んだんだろ? 魔王とどんな戦いしてんだ、いったい?」
そう言われレイは顎に手を当て話しだす。
「んーそうだな……ダーツしたりチェスやったり……あっ! そう言えば腕相撲とかもしたな」
「……お前それ遊びに行ってるだけじゃないのか?」
男の言葉にレイは立ち上がり声をあげた。
「断じて違う! 俺は真剣に魔王と勝負をしているんだ!」
レイの剣幕に押された男はそれ以上魔王の事について聞くのを諦めた。
「わ、分かったよ。落ち着け」
突然大きな声をあげ立ち上がった事により、周りの客に視線を向けられたレイは、恥ずかしそうに席に座り直し、向かいの男に別の話題を振る。
「そ、そう言えばバックス。最近、副隊長になったらしいじゃないか。どうなんだ騎士団の方は?」
レイに質問されたバックスはいつの間にか置かれた酒を一口飲み答えた。
「ん、まあどうもしねえよ。別に副隊長になったからって特別何かが変わる訳でもねえし」
「でも周りじゃ史上最年少での副隊長就任に関心も高いんじゃないのか?」
バックスは酒を一気に喉に流し込みグラスをテーブルに置く。
「どうかね。まあ隊長は期待してくれてるみたいだが、俺より前に入った年上の連中はそう
「……そうか」
と、しんみりとした雰囲気を感じたバックスは話題を変えた。
「おう、そう言えばレイ。セパールの噂聞いたか?」
突然のセパールと言う単語にレイは不思議そうな顔をした。
「セパール? なんだ、何かあったのか?」
「なんだ知らねえのか」
「なんだよ教えろよ、何があったんだ」
するとバックスは周りの視線を確認し身を乗り出し小声で答えた。
「それがよ、聞いた話じゃ滅んじまったらしいぜ」
「は? どういう事だよソレ。もしかして魔王軍が攻めて来たのか?」
レイの質問にバックスは腕を組むと、険しい表情で話し始める。
「いや、俺もよく分からないんだが。聞いた話しじゃ、魔王の討伐には向かった男が一人のおっさんを連れて帰ってきたら、宮殿を滅茶苦茶にされて何か色々あって滅んじまったらしいぜ」
「なんだよソレ! 全然分からねえよ!」
レイのツッコミにバックスは笑いながら答えた。
「アッハッハ、そうだよな俺も全然訳分からなかったは。そもそもあり得ねえよな、おっさんに国滅ぼされるとか(笑」
「本当だよ、どこにそんなおっさ……」
バックスはレイが何かを言いかけてグラスを持っている手が震えだすのを見ていた。
「お、おい、どうしたんだよそんな冷や汗かいて」
「ん、ああ、だ、大丈夫だ。き、気にするな」
「本当に大丈夫か?」
レイは席を立ちバックスに離席の意を伝える。
「わ、悪いトイレ行ってくるは」
その言葉にはバックスは笑って返答した。
「なんだよトイレかよ、何かと思ったは。漏らすなよ?」
「漏らさねえーよ!」
バックスの冗談にツッコミを入れるとトイレに駆け込む。そして便座に座りブツを出し思考する。
「……(あれ? ちょっと待てよ。おっさんってまさか、あのおっさん?……もしかして俺の事探してる? えっ? でもあれ以来俺達ちゃんとルール守ってたし……まさか魔王がなにか!?)」
と、そこへ突然のノックの音が勇者の思考を中断させる。
「おーい、大丈夫かー?」
「ッ! お、おう、今出るとこだ」
「そうか、じゃあ追加で酒頼んどくはー」
「り、了解ー」
………魔王城に行って魔王に確認するか。そう思い勇者はドアを開け自分の席に戻った。
──その頃魔王は。
「Zzzzz」
寝ていた。ぐっすり寝ていた。酔いつぶれアロスの城の一室で幸せそうな顔をして寝ていた。
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