第13ワ 破滅へのカウントダウン。


 部下二人は民家の玄関前にいた。正面から見ると本当にただの民家で、とても魔王城の関係者の家だとは思えない。

 その内の一人は、ふとニ階のベランダに視線を向ける。そこには白いよれよれになった布らしき物が干してあるのが見えた。

 

 まあそんな事はどうでもいい、とりあえずさっさと仕事を終わらせよう。そう思い部下は玄関の扉をドンドンっとノックする。


『…………』

「留守か?」

「いや、もう一度だ」


 反応の無い様子に、部下はさっきよりも強めにノックした。すると、怒鳴り声と共に勢いよく扉が開く。


「うっせーよ! カス! 1回ノックすりゃあ十分だろ!」

「「!……………」」

 

 凄まじい勢いで開いた扉の先には、パンツ姿でよれよれの半袖を着たおっさんが、不機嫌そうな表情で立っていた。

 こいつは絶対、魔王城関係者じゃない。そう思ったが、万が一と言うこともあるため部下は任務の遂行に務める。


「貴様に聞きたいことがある」

「あ? なんだ、てめぇ等は?」

「我々が何者かは関係ない。貴様は我らの質問にただ答えていればいい」


 おっさんはその態度に険しい表情で頭を掻きむしり、独り言を口にした。


「ったく、なんで最近のガキはこう礼儀ってやつを知らねぇんだ?」


 部下はおっさんの独り言を無視して話を続ける。


「貴様は魔王に関して何か弱点など知っていることはあるか?」

「あぁ? 仮に知ってたとしても、てめぇ等のような態度のやつには教えねえよ」

「ほう、知っているんだな?」

「いや、知らねぇけど教えねぇよ!」

「「?」」


 部下二人はおっさんの言葉に疑問を浮かべたが、語気を強めてもう一度質問した。


「貴様に拒否権は無い。殺される前に早く知っている事を話せ」

「うっせーよ! こっちはなァ、丁度カップ麺待ってたところなんだよ! てめぇ等のせいでノビノビ確定じゃねえかよ! どーしてっ」


 イライラして話すおっさんの言葉は、部下がおっさんの喉元に剣の矛先を向けた事により遮られる。


「貴様の事情などどうでもいい、早く答えろ」


 おっさんは、ゆっくりと喉元に突き付けられた矛先に目線を落とし………掴んだ。そして…………握りつぶした。


「「!?」」


 部下達は目の前で起こった非現実的な出来事に目を疑った。何故ならおっさんにより握り潰された剣の矛先は粉々に砕け散り、地面にボロボロと音を立てて落下していったからである。

 目の前で起こった現象を処理しようと、脳みそを働かせていたが、それを待たずにおっさんの声が聞こえてくる。


「あー、ダメだは。うん。ひっさしぶりキレちまったは」


 レッドナートは、部下達が突然倒れたのを見ていた。何が起こったのか理解する前におっさんは彼の元に歩み寄る。


「てめぇが親玉か?」

「き、貴様! 何をした!」


 音は無かった。気がつけば身体は宙を舞っている。そして遅れてやってくる顔面の痛み。


「ぐぁ!?」


 顔に手を当て確認すると手には赤い液体が付着している。

 

「っ!」

 

 レッドナートは尚も自分のほうへ歩み寄ってくる化物に反撃を開始した。

 彼は白銀の剣と言われる剣を抜き、普通の生物では認識できないスピードで化物に接近する。そして、岩すら両断するその剣は化物の首を両断した。


「……クソ、ついカッとなってしまった」


 遅れて化物の首は地面に落下す………しない!?

 それどころか、その化物は言語を発し始めた。


「ほう、それがお前の全力か?」


 驚愕の出来事にレッドナートは目を疑う。握っている剣に視線を向けると、剣は途中で折れ、近くに折れた残骸が落ちていた。

 

 剣は確実にこの化け物の首を通過したはず、ならばそこから導き出される仮説は、何か自分が認知出来ない様な魔法を使ったか、あり得ないが化物の首の強度に剣が耐えられなかったか。

 そんな事を思っていると左肩に軽い振動を感じた。


「なあ、お前等はどこのもんだ?」


 そう化物に訊かれたレッドナートは恐る恐る答える。


「そ、それを聞いてどうする」

「いーからさっさと答えろよ」

「セ、セパールの者だが」


 セパールと聞いておっさんは疑問を口にする。


「それはどこだ?……まあいい、案内しろ」

「あ、案内させてどうするつもりだ!」


 おっさんは軽く笑みを浮かべる。


「どーもしねぇよ。安心しろするだけだ」


 ──その頃魔王城では。


「イリス様バンザーイ!」

『『イリス様バンザーイ!』』


「イリス様の笑顔は?」

『『月光の様に美しい!』』


「イリス様のその眼差しは?」

『『サファイアの様に澄んでいる!』』


 中庭で繰り広げられている奇行に、イリスは顔を引きつらせ隣にいるポニーテールの女性に助けを求める。


「ね、ねえ、シュティあれは何をしてるの?」

「た、多分何かの儀式じゃないかしら」

「怖いから辞めさせて貰っていいかしら?」


 イリスは身に危険を感じ身体を震わせた。そして独り言を呟く。


「クロスのやつは何をしてるの? 早く帰って来なさいよ!」


 ──その頃魔王は。


「〜〜〜プハー!」

「流石っす、魔王様!」

「よーし今度はアロス、お前の番だ!」

「んっく、んっく……っプハー!」

『『キャー、アロス様いい飲みっぷり』』


 魔王とアロスは酒宴を開いていた。


「まだまだ我は飲めるぞー!」 

『もう、そんな事言ってお顔が真っ赤ですよ』


 隣に座る女性にほっぺたをツンと突かれた魔王は上機嫌だった。


「よーし、今日は我の奢りだ!」

『キャー、魔王様かっこいいー!』

「よっ! 流石は我らが魔王!」


 それを近くで見ているラミとネロは額に手を当て呟く。


「なぜアレが四天王なのかしら」

「なんで魔王様はあんなに乗せられやすいだ?」


「「……はぁ」」

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