第11ワ 風の魔将アロス。


 魔王城より東に位置する、とある城ではこの城の城主である男が周りに女をはべらせ、酒宴を開いていた。

 褐色の肌が赤く見えるほど酔っている様子の男は、手に持っている酒を喉に流し込み上機嫌であった。


「プハー、この葡萄酒ぶどうしゅは本当にうまいなー」

「うふふ、もう飲みすぎですよ様」

「大丈夫、大丈夫! まだ全然酔ってないって」

「もー、そんな事言って、お顔が真っ赤ですよ」


 隣に座る女性にほっぺたをツンと突かれたアロスは更に上機嫌になる。


「よーし! 今日はとことん飲むぞー!」


 そう言うと、かたわらにいる女性を引き寄せ、ボトルごとグイッと飲み干した。

 

 すると、そこにショートボブの赤髪をなびかせ、何やら不機嫌そうな様子の女性が、ズカズカと酒宴の席に入ってくる。


「アロス様! いい加減にしてください!」


 突然の大きな声に、ガヤガヤと賑わっていたその場は静まり返り、アロスは声の主を見て不思議そうな顔をする。


「んー、どうしたぁ? ー?」

「どうした? じゃないですよ! そろそろちゃんと仕事してくださいよ!」

「んー? 仕事ぉ? 仕事なんてなんかやることあったかぁ?」


 ラミは、そのベロベロに酔って全く話にならない様子のアロスを見て、なんとか感情を落ち着かせ冷静に話しだす。


「領地の地形や、領民に関する資料がまとまったので目を通して欲しいって、私、1週間前に言いましたよね? あれはご覧になりましたか?」


 アロスは、首をかしげキョトンとした。


「んー資料? そんな物貰ってないぞぉ?」

「っ!」

 

 グーパンだった。痛かった。思い出した。机に置きっぱだ。


「イッタぁ! ごめんなさい、ごめんなさい思い出しました!」

「それで、ご覧になりましたか?」

「……ってません」

「はっ?」


 ゴニョゴニョと話す彼にラミは眉間にシワを寄せる。


「あのー、だから……まだ見てません……」


 それを聞くと彼女は、笑顔で拳を握って見せた。


「ちょ、ちょっと、待ってください! 今すぐ確認するんで許してください!」


 そう聞くとラミは、「はぁ」とため息を吐き話しだした。


「仮にも魔王様にこの東の地を任された領主なんですよ?」

「はい」

「ましてやあなたは魔王軍の四天王の一人。風の魔将と言われるくらいなら、もう少し、しっかりしてください!」

「はい。以後気をつけます」


 そしてそれだけ言うと彼女は酒宴の席から去っていった。


「……皆、ごめん、今から仕事をしなくちゃいけなくなっちゃいました」


 ──魔王とネロは、アロスの城目指して飛行していた。

 そんな中、ネロはさっきから気になっている魔王の背中から生えている物について質問した。


「……あの、魔王様」

「ん? なんだ?」

「その背中から生えてる物はなんですか?」


 ネロが質問した物とは魔王の背中から生えてる漆黒の翼である。


「ああ、これか? これはなあ……翼だ」

「……はい、見れば分かりますけど。魔王様翼とか生えてませんでしたよね?」

「いや、これはあのー、付けよくだ」


 という謎のワードにますます意味が分からなくなったネロは首をかしげた。


「なんですかそれは?」

「その名のとおり飾りだ。ああ、飾りと言っても魔力を込めれば本当に翼として機能するがな」

「なぜ、そんな物を付けているのですか?」


 その質問に魔王は、少し恥ずかしそうな顔をした。


「いやー、ほら俺って見た目、瞳が赤のと耳が少し尖ってくらいで、あんま人間と大差ないだろ?」

「はあ?」

「だから翼でも付けたら、ソレっぽくなるかなあと思ってな」


 そう言うと魔王は、どうだと言わんばかりに翼を見せてくる。


「どうだ、コレかっこいいだろ!?」

「は、はい」

「そうかそうか。よし! なら今度ネロにも作ってやろう」

「あっ、僕は大丈夫です」


 ネロの即答に少し落ち込んでいると、アロスの城が見えてきた。


「……よし、ではそろそろ地上に降りるか」

「はい」


 そして、地上に降りた二人は少し歩き、呑気のんきにあくびをしている門番を発見した。


「そこの者」

『ふゎ、ん? 何だお前たちは?』

「この御方は魔王様である。アロス様に用事がある上、開門を求める。直ちに門を開けよ」


 それだけ聞くと門番は舐めるように魔王を見て疑いの念を口にする。


『んー、本当に魔王様か?』

「貴様! 無礼であるぞ!」


 ネロが八つ裂きにでもしそうな勢いで門番に詰め寄ったので、魔王はネロの腕を掴み制止した。


「まあ待てネロ。この者が疑うのも無理はない。地方の者は俺の顔を知らぬ者も多い」

「で、ですが……」

むしろこの門番を褒めるべきだぞ?立派に門番としての仕事を果たしているではないか」


 そう説き伏せると魔王は門番に顔を向け、背中に畳んである翼を広げて見せた。


「どうだ? これでも信じてもらえんか?」

『ッ!……そ、その漆黒の翼は!』

「どうかな?」

「……た、大変失礼いたしました! 直ちに開門させますので少々お待ちください!」


 門番の了承を得た魔王は、ネロに得意げに翼を見せた。


「どうだ? この翼も役に立っただろ」

「は、はい」

「もし、欲しくなったらいつでも作っ」

「あっ、僕は大丈夫です」


 ネロ即答に落ち込んでいると城門が開いた。


「魔王様! 開きましたよ、早く中に入りましょうよ」

「お、おう(これ、かっこいいと思うんだけどなぁ……)」

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