第10ワ いざ東へ。


 アンデットの鎮圧から1日経ち、魔王城のとある一室では、密偵の少年がちょうど魔王に命じられていた仕事を報告していた。


「魔王様。昨夜、指示された調査が終わりましたのでご報告致します」

「続けてくれ」

「はい。アンデットが出てきた穴を数本を調べましたところ、全てが北に約1キロ地点の河川敷へと繋がっていました」


 そう聞くと魔王は、顎に手を当て少し息を吐いく。


「……そうか。他に何か分かったことはないか?」

「それが、無数の穴を残すのみで、辺りに手掛かりになるような物は何も……」


 ふと窓から外を見ると、外では昨日の穴を城の者総出で埋めているのが目に入った。


「そうか、ご苦労であったネロよ。済まんな病み上がりの身なのに」

「いえ、もう幾日かお休みを貰ったので身体は平気です。……では、僕はまだ仕事が残っていますのでこれで失礼します」


 そう言って部屋から出るネロを見送ったと、魔王は椅子の背もたれに寄っかかって息を吐く。


「ふぅ、何か手掛かりでも分かると思ったが、これでは調べようが無い。……くっそ、勇者のやつ呑気のんきに帰りやがって、今になってムカついてきたは」


 近くの机でで他人事の様に、紅茶を楽しでいた女は、そんな魔王の独り言を耳にすると、紅茶を机に置き口を開く。


「その辺りに墓地でも有ったんじゃない?」


 魔王はそう言ったイリスの言葉に座り直して答えた。


「いや、あの辺りは墓地はおろか構造物すら無い。……アレだけ大量のアンデットを運んだとなると、車輪の跡一つあってもいいものだが……」


 イリスは少し考え、眉をピクッと動かし何か思いつく。


「もしかして、舟でも使ったんじゃない?」


 魔王は目を丸くして、まるで謎が解けたと言わんばかりの表情した。


「それだ!」


 すると近くに立つ、えんじ色のポニーテールの女性にすかさず訊く。


「シュティ! あの川の上流には何が有るか分かるか?」


 そう質問された彼女は、口に指を当て少し考える。


「そうですね……あの川は東の方から来ていて……あっ、確か上流のほうは様の領地まで続いていたはずです」

「うーん、そうか……それならアロスなら何か知っているかもしれんな」


 そう言うと魔王は、席を立ちイリスが座っている机の前まで歩く。


「な、なに?」

「イリス、頼みがある」

「なによ?」

「俺が戻るまで城に居てくれないか?」


 そう言われるとイリスは少し驚いた顔をした。


「えっ? あんた、もしかして直接アロスに聞きに行くつもり?」

「ああ、そのほうが早い」


 するとそれを聞いたシュティが疑念を口にする。


「魔王様自ら行かれずともよいのでは無いでしょうか?」

「いや、我、自ら行ったほうがアイツもちゃんと話を聞くだろう。それに何か分かった時すぐ指示を下せる」

「……そうですか、分かりました」


 シュティの了承の声を聞いた魔王はイリス向き直る。


「ということでイリス、もう少し城に居てくれないか? お前が居れば他の者も安心するだろう」

「……嫌よ、そもそも昨日で帰る予定だったのを、あんなことが有ったから1日泊まっただけなのに」


 そう言われた魔王は、真剣な眼差しでイリスを見つめて頼んだ。


「頼むイリス! お前にしか頼める者はいないんだ!」


 イリスは魔王の真剣な眼差しに、思わず視線をずらし、そっぽを向いた。


「わ、分かったわよ。……但し早く帰って来なさいよね!」

「ああ、遅くとも三日の内には戻る」


 ──とある人間の王が治める小国にて。


 人間の大国二つと魔族の国一つに国境を接する小国『セパール』では王宮の一室で王と、とある者が議論をしていた……というより王の説得をしていた。


「我が王よ、どうかわたくしに魔王討伐をご命じください」


 短髪の銀髪に、白銀の鎧を身に着けた三十路前後の男に、そう言われ少し気を使って話す王。


「い、いや、だが魔王はかなり強いと聞くぞ? あの西の勇者も、倒せなかったと噂じゃないか」


 王の返答を聞いた男は少し苛立って語気を強めた。


「我が王よ、もしやと言われる私が勝てないとお思いか?」

「い、いや、そうではないが。……わざわざ討伐せんでも今のままで良いのではないか?」


 それを聞いた男は片膝立ちを止め、立ち上がり声を張り上げる。


「何を言うのですか! 今この状況だからこそ魔王討伐に意味があるのです! もしこのまま何も行動を起こさなければ、いずれこの国は大国に飲み込まれてしまいます。そこで魔王討伐なのです!」


「お、おお、どういうことじゃ?」


「魔王を討伐したという事実があれば、周りの国々も一目置くでしょう。そして魔族の脅威も無くなります」


 それだけ聞いてもまだ心配の種は尽きない王はもう一つ聞く。


「し、しかし、魔族と戦争にでもなりやせぬか? 魔王の城まで行くのにも険しい道のりじゃろ?」

「大丈夫です、魔王を私が倒せば戦争は起きません!」

「そ、そうか……」


 それだけ言って、沈黙している王を見たレッドナートは少し強めに促す。


「さあ! 早く、私に討伐をご命じください!」

「わ、分かった分かった。では魔王討伐をここに命じる」

「はっ!」


 ──そんなこととは露知らず、魔王はアロスの領地へ向かうためネロをお供に付け城を出ようとしていた。


「では行ってくる」

「はい。お気をつけて」

「早く戻ってきなさいよね!」


 シュティとイリス声を聞いた魔王は、ネロを連れ東の方角へと飛び立って行った。

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