第9ワ 動きだす者。
中庭では……というか魔王城のいたる所では魔王やその部下、そして四天王の一人イリスがアンデットを殲滅すべく、それぞれ対処に追われていた。
「くっそ! こいつ等を操ってるのは誰だ!」
そう愚痴をこぼしながらもアンデットに有効な火球を手から放ち、一体ずつ確実に処理していく魔王は、次々と地中から這い出てくるアンデットに苛立っていた。
そもそもアンデットというのは、明確な意思を持って誰かを襲ったり、どこか目的の場所へ移動したりといったことはしない。
ましてや、こう一度に大量に出てきて襲ってくるというのは、誰かに操られていない限りあり得ないのである。
あまりの多さに一発ドカンと、炎系の魔法を使おうと思ったが、あのおっさんが頭を
──城の東側では、シュティが部下たちに的確な指示を出し、効率よくアンデットに対処していた。
「炎系の魔法が得意な者は
『『はっ! 畏まりました!』』
──そして、西側のイリスはというと……
『貴様らァ! 今から指示を出す! よく聞け!』
『『はい! 何でしょう会長!』』
『イリス様には絶対に指一本触れさせてはならねぇ! もし万が一、イリス様がお怪我をされた時は、この俺が、お前らをぶっ殺す! 分かったか!』
『『はい! 承知致しました!』』
『よし! では行けぇ!』
そう部下に支持を出したのは【イリスFC(非公式)】の会長兼、魔王軍精鋭部隊隊長の『ザク』という黒い身体に尻尾が生えた悪魔である。
それを後ろで見ていたイリスは、顔を引きつらせながらザクに声を掛けた。
「あ、あのー、ちょっといいかしら?」
「はっ! 何でしょうか、イリス様!」
「こんなに厳重に護って貰わなくても、私はアンデット如きには怪我なんてしないは。だからもう少し兵を分散させてみてはどうかしら?」
「はっ!? イリス様! いくら相手がアンデットだと言っても油断は禁物ですよ!……安心してください! イリス様の安全は我々が必ず護ってみせます!」
「……分かったは……もう何も言わないは……」
──城の南側では援軍が来るのを期待し下僕達が踏んばっていた。しかし、次から次へと這い出てくるアンデットにそれも時間の問題だった。
『クッソー! いったい何体出てくれば気が済むんだ!』
『このまま俺達だけじゃ持ちこたえられないぞ!』
『魔王様ー、早く来てくださーい!』
するとそこへ一人の男が気怠そうに降り立った。魔王では無い。
その男はカリカリと首筋を掻き口を開く。
「暇だから手伝ってやるよ」
そう口にした男を見て下僕達は驚きと懐疑の念を口にする。
『ゆ、勇者!?』
『お前何をする気だ!』
口ではああ言った勇者だが、魔王城の各地で起きている光景を見て、そこは勇者の
そして勇者は剣を抜き、矛先を天に向けて後ろにいる悪魔達に気怠そうに言う。
「お前ら目閉じとけよー」
『『!?』』
そう言うと勇者は技を使う。
「さあ、成仏してくれよ……『
そして、何やら終わった雰囲気を感じた悪魔達は、恐る恐る目を開けて目の前の光景に驚愕する。
『……あれ?アンデット達は?』
『アンデットが消えた!?』
さっきまで、百体以上は居たであろうアンデットはその場から消え去り、辺りはソレが出てきた穴を残すのみで静寂が支配していた。すると、静寂を破り勇者が口を開く。
「だから言っただろ手伝ってやるって」
『あの量のアンデットをお前……』
『……うぉぉぉぉお! 勇者すげー!』
『た、助かった!』
『うわっ、マジやべぇ! 俺サイン貰おっかな』
そんな声を聞いていた勇者だが、他の場所が気になり、とりあえず西から時計回りに周ってみることにした。
しかし西側に到着すると、既にアンデットは殲滅したのか、焦げ臭い匂いと骸骨の残骸を残すのみで、そこには誰も居なかった。
──北側ではシュティ、イリスが自分の持ち場の仕事を終わらせ魔王に報告をしていた。
「魔王様。西側のアンデットは殲滅いたしました。」
「東側も終わったは……まあ私は何もしてないけど……」
「ん? ああそうか、二人ともご苦労であった」
そんな中、魔王は遠くのほうから知った顔が歩いてくるのが見え顔をしかめる。
「なんだ? 何しにきた?」
「いや、暇だから見に来てやったんだよ」
「フン、ご覧の通りもう終わったは」
そう言うと魔王は、身体の向きをかえ、どこか別の場所に移動しようとした。すると、それを見た勇者が制止するように声を掛ける。
「ん? ああ、アンデットは俺が倒してやったぞ」
魔王は疑念を口にした。
「……どういう風の吹き回しだ?」
「別にお前に協力した訳じゃねえよ。待ってんのも暇だったから手伝ってやったんだよ」
「……ふん。まあいい、手間が省けた」
魔王はアンデットが出てきた穴を見つめる。
「勇者よ。今すぐ勝負と行きたいところだが、これの原因を解決するまでは勝負は一旦お預けだ」
──魔王城より北へ約1キロ地点の川辺。
フードを被った者は、ゆっくりと目を開けると近くにあいた穴を見つめる。
「……あれが勇者か……なぜ勇者がおるのかは知らんが……まあよい、ある程度は分かった」
そう言い残すと、その者消えるようにして姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます