第34話

 アリスとブルーノはエルバの町に向かった。

「そろそろ町がみえますよ、アリスさん」

「ええ、ブルーノ様」

 町に着くと、ブルーノは町の入り口で立ちどまった。

「それではアリスさん、宿屋の主人に手紙をわたし、荷物を持って来てください」

「はい」


 アリスは一人でエルバの町に入った。

「……まずは宿屋に行きましょう」

 ブルーノが泊まっていた宿屋に着くと、アリスはブルーノからの手紙を宿の主人に渡した。「諸事情により、アリスさんと暮らすことになりました、か。アリスさん、おめでとう」

 宿屋の主人はブルーノからの手紙を読むと、にっこりと笑った。

「え? ありがとうございます……?」

「じゃあ、ブルーノさんの荷物を持ってくるから、ちょっと待ってて下さい」

「はい、お願いします」


 アリスは出されたお茶をのみながら、主人が荷物を運んでくるのを待った。

「はい、お待たせ」

「ありがとうございます」

 アリスは荷物を見て驚いた。

「まあ、少ないのですね」

「そうですね。ブルーノ様は身の回りの品くらいしか持っていらっしゃいませんでしたから」

 

 アリスは宿の主人にブルーノから渡されていた今までの宿代を渡した。

「おや? すこし多いようですが……」

「多分、ブルーノ様の気持ちです」

「それなら遠慮無く頂戴致します。荷物はお運びしましょうか?」

「いいえ、結構です」

 アリスは宿の主人の申し出を断り、ブルーノの荷物を一人で運んだ。


「荷物は少ないけど……けっこう重いですね」

 アリスはブルーノの鞄を引きずるように持って、一度町の外に出た。

「ブルーノ様。宿屋に挨拶をしてきました」

「アリスさん、ありがとうございます。荷物も運んで下さったのですね。重かったでしょう?」

「はい……重かったです」

 素直に答えるアリスの声を聞いて、ブルーノは笑って片手で鞄を受け取った。


「宿代は足りましたか?」

「はい。すこし多めだったようでしたが……」

「あの宿にはお世話になっていたので、謝礼も入っていました」

 ブルーノの言葉を聞いて、アリスは頷いた。

「そうだったんですね。それでは、市場で買い物をしてきますのでもう少しお待ちください」


「はい、申し訳ありません。アリスさん」

「いいえ、お気になさらず。ブルーノ様」

 アリスはブルーノを待ちの入り口に待たせたまま、町の市場に向かった。

 アリスはパンとチーズと肉を二人分買うと、町から出ようとした。

「アリスさん!」

「あら? イルさん」


「今日はどうしたんですか? ずいぶん沢山の食料を持っているようだけど」

「はい……あの……ブルーノ様と一緒に暮らすことになったので」

「それじゃ、とうとう結婚されたんですか!?」

 イルの言葉に、アリスは顔を赤くした。

「え!? とうとうって……ブルーノ様とはそう言う関係ではありません」

「そうなんですか? てっきりお二人はお付き合いしていらっしゃると思っておりましたから」


「あの、今日はいそぎますので」

「ああ、そうでしたか。お引き留めして申し訳ありませんでした」

「いいえ。これからもよろしくお願い致します」

 イルはそれだけ言うと、アリスに手を振って去って行った。

「さあ、ブルーノ様のところに戻りましょう」

 アリスはパンとチーズを両手に抱え、背中に肉を背負い町を出た。


「アリスさん、買い物までありがとうございます」

「いいえ、ブルーノ様。お好きな物が分からなかったので……いつも私が家で食べているものを買ってきてしまいましたが……大丈夫でしょうか?」

 ブルーノはアリスから食料を受け取ると、中を見てにっこりと微笑んだ。

「どれも私の好きな物です」

「良かったです」


「それでは森に帰りましょうか」

「はい、アリスさん」

 二人は一緒に森の家に帰っていった。

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