第二十五話
そもそも偉炎は切風と出会って一時間ぐらいしか経っていない。それにも拘らず、こうして切風の提案に賛同して色々とレクチャーしてもらっている。冷静に考えてみたらおかしな状況だ。そして、もっとおかしいといえば切風本人のことである。
(武器についてここまで詳しく、重い拳銃を蹴飛ばす程の身体能力、そして赤虎組が来るという普通の人なら知る由もない情報・・・誰なんだこの人は)
「なぁ切風。」
「おっ、ここに来て切風呼ばわりかい?まぁいいよ。で、どうした?」
切風は両腕を腰に置きながら質問を答える姿勢に入った。
「切風ってなんでここまで色々と知っている?」
「・・・さぁ、なんでだろうね。」
「それに加えてその見た目とさっきの身体能力。明らかに普通に生きていたらそんなふうにならないはずだよな。」
「・・・ひどい言いようだね。」
切風の態度が冷たくなる。そしてさっき口論になった時と同様に謎の威圧感が偉炎を襲う。
(まずい!さすがに入り込みすぎたか?いや、ここではっきりとしないとこれからの僕の人生どうなるか分からない!)
偉炎は覚悟を決めて切風に単刀直入に聞いた。
「切風って一体何者なん・・」
「あ!ついに来た!ほら見てみて!」
「え!」
もう少しのところだった。切風は話を中断して体育館の屋根の方を指さした。突然の行動だったので偉炎は話している内容も忘れ、反射的にその方向を向いた。それとともに、自身が目視した情報に驚いた。
なんとそこには五人の赤いジャージを着た男たちが既に武器を所持してうろうろしているではないか。偉炎は切風の話に集中していたせいで時間を忘れてしまい、現在時刻が始業式の開始時間をとうに越していることに気付かなかったのだ。
いよいよその時が来たようだ。
(全く気付かなかった!)
いざとなるとさすがに動揺を隠せなかった。自分がすることを自覚してしまったのだ。ワイヤーで体育館の屋上に降りて、今持っている拳銃で目の前にいる人間を・・・殺す。
「ここまで来ていたとは、いやー敵さんもお見事お見事。」
切風は敵を確認するとその素早く隠密な行動に拍手をした。
(感心している場合か!)
ここで偉炎は切風にツッコミを入れたかったようだが、今の時点で、大声を上げてしまうと、自分たちの存在が敵、つまり赤虎組に見つかってしまう可能性があるため心の中で今ある思いを叫ぶだけにとどめた。
ただ、それでも納得のいかないことが偉炎にはあった。
(少なくとも切風は絶対気づくことできたはずだ。)
さきほども述べたが、偉炎の中の切風の能力に関しては一定の評価をしている。この人は普通とは違う、ただそれは決してそれが悪い意味だけとは限らない。だから、今回敵がすでに体育館の屋根にいたなら、それを素早く見つけて適切な判断ができると偉炎は確信していた。そうでもないとワザと気づかないふりをしていたとしか考えられない。また、
(この距離なら僕でも気づけたのでは?)
と己の神経に少しの疑いも生じた。拳銃を拾ったときのように感覚が麻痺した認識はない。そのため、そこまで遠くない距離で目立つ赤い服を着た集団が作業しているなら気づくはずではないかと自分自身に問いかけたのだ。
しかし、偉炎はそんな気持ちを押し殺した。一つ一つ考えていても現実が変わるとはないし、変に思い詰めると何度目かのパニック状態に陥り、先ほど決めた覚悟に亀裂が入ってしまいそうだったからだ。
「作戦決行・・・でいいよな。」
偉炎は口元を少し震わせながら当然のことを切風に尋ねる。
「もちろん!むこうは気づいてないようだしね。」
切風も迷わずOKサインを出した。そして、相変わらずの笑顔で次の段階に入ることを告げる。
「さて、準備しようか。」
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