第二十四話
(あわわわわ・・・)
偉炎はもはや冷静を保つことができなかった。そして心なしか、彼の目がナルト状にクルクルとしているように見えた。
「ふふーん、それでは・・・」
偉炎の心理状態を察したからだろうか、切風はかなり上機嫌であった。
「まずは拳銃の構え肩を教えます!」
「・・・へ?」
偉炎は顔をキョトンとさせた。
「いや、拳銃の解説だけ見ても実際に撃ち方を真似して見ないと意味ないでしょ?だからこれからレクチャーしようかなと。」
「・・・はぁーー。」
力んでいた体が深い深呼吸とともにしぼんだ風船のように緩んだ。
「なんだそんなことか・・・。」
「ん?どした?何があると思った?」
「いや、別に。」
「ふふ♡」
切風は本当に人に対する接し方を心得ている。
「よし!それでは早速やってみよう!まずは足を肩幅より大きめに開いて。」
「分かった。」
偉炎は切風に言われた通りにした。
「次に、利き手で拳銃を押し、左手で握りこぶしを引くような感じで持ってみて。あっ、膝は少し低くしてね。」
「こんな感じ・・・?」
偉炎は切風の言葉を理解するのに少し苦労しながらもなんとか言われた通りに姿勢になった。
「OKOK!その状態が拳銃を撃つ時に基本的な姿勢ね。一応プッシュプルっていうよ。」
「へー。」
実際に発射しておらず現時点ではなんとも言えないが、この姿勢なら狙った場所にある程度正確に発射することができ反動も制御できると偉炎は確信した。
しかし、ここで偉炎に再び試練(?)が襲い掛かる。
「あ!ちょっとその姿勢のままでいて!」
そう言うと切風は偉炎の手に触れた。
「え、ちょっ!」
再びの動揺を隠せなかった。女性が自分から偉炎の手を触ってきたのだ。もう一度言うが偉炎は正真正銘のチェリーボーイである。
「拳銃の持ち方が違うよ。もっとグリップの上を持って。それに、左手はもっと手前に置いて拳銃を支えるように持たないと。」
切風が黙々と話すが、偉炎はそれどころではなかった。
(やばいやばいやばい!)
今日何度目であろうか?彼は冷静さを失いかけていた。
しかし、この数時間で学んだのだろう。偉炎はこの状況をどうやって切り抜けるのかを必死に考えていた。
(でもここは負けていられない!男として冷静にならないと!)
偉炎は切風の説明が終わるまで集中することにした。
様々な部位を接触してくる切風に対して偉炎の心と体が目まぐるしく熱くなる。春風が穏やかに吹く中で彼らのいる空間だけ謎の熱風が吹いていたことに本人たちが気付くことはなかった。
「はい!説明等は全て終了!お疲れ様でした!」
十分経ったところで切風は説明の終了宣言をした。集中した甲斐もあり、偉炎はこの時間で拳銃の操作についてアマチュア並みに把握することができた。
「どうだった?私の説明凄かった?!凄かったよね?!」
メガネの後ろにある赤と青の目をキラキラさせながら偉炎を見つめる。どうやらよほどほめて欲しいそうだ。そして、実際のところ切風の解説は「素晴らしい」の一言に尽きていた。経験者しか知らないであろう知識を混ぜ込みながら、拳銃を所持して一日目の偉炎でさえ分かるように教えていたのだから。その姿は銃の専門家と言っても大差なかった。
そんな時、偉炎は純粋かつ素朴な疑問であるものの、それが脳裏によぎった。
(この人は一体・・・)
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