第二十話
しかし、ここで偉炎は改めて思い知らされる羽目になる。この切風という女に一番似合わない言葉が〟普通〝であるということを。
「名付けて〝ワイヤー急襲作戦〟!」
「・・・へ?」
切風が偉炎を指さしながらまるで何かに勝ったような笑顔で作戦名を言った。いわゆる「ドヤ顔」である。もちろん偉炎は反応に戸惑う。
「意味不明なんだけど・・・」
「要は、敵がもうすぐ体育館の屋根に来るからそいつらを私が屋上と体育館の屋根に繋げておいた透明のワイヤーを使って体育館の屋根へ急襲するってことよ!」
「ワイヤー!?」
「そう!どっかのアクション俳優みたいでしょ!それに私も参加するから大丈夫!」
「いや、それ完全にもモブキャラの死ぬシーンだよね!?映画の冒頭で死ぬ役だよね、僕!」
切風は話すのが面倒くさいのかかなり雑な説明をした。それに加えてアクション俳優とかなんとか言うので余計に意味がわからない状態になってしまった。そのためここからはもう少し具体的に言わなければならない。分かりやすくするとこうだ。
切風は先程、偉炎が気絶している間に体育館の屋根と校舎の屋上(今、二人がいるところ)を透明なワイヤーで結んでいたらしい。透明なのはもちろん敵にばれないためだ。その後、赤虎組が体育館の屋根に着いて王電家の御曹司を捕まえるための準備に入り、油断した所に偉炎がワイヤーを使って校舎の屋上から体育館の屋根の屋根に飛び移り、敵を殲滅する。こういう寸法らしい。
これにはさすがに誰でも納得できない。そこにいるのが偉炎でなくてもそうだ。始めてのことが多すぎてリスクが高すぎる。
「いやいやいや!それは無謀すぎるって!第一ワイヤーに何を使って屋根に飛び移るのさ?」
偉炎は動揺した。
「ん?もちろんこれを使って。」
切風は近くにあった、機材の中から一つを偉炎に見せた。それを見た瞬間、偉炎は自分の死の運命が近づいていることを理解した。
ただのハンガーである。
どこからどう見ても一般的なハンガーであった。偉炎は呆れてしまいついにはこんな質問までしてしまった。
「ハンガーの使い方、知ってる?」
「うん!知っているよ。」
「なら、こういう使い方をしないのは知っているよね?」
「うん!もちろん!」
「ならなんでハンガーを使う?!他に色々あっただろうが!?」
「うん、あったね!」
「・・・」
つまり、どこにでも売られているハンガー命綱としてワイヤーに引っ掛け、そのまま体育館まで直行し、その勢いで人を殺せということだ。こんなこと誰が予想できただろうか。偉炎はついに返す言葉を失ってしまった。
少しの沈黙が流れた。偉炎は少し下にうつむき、両手で自分の髪をわしゃわしゃさせた。
(だめだ、このままでいいのか分からなくなってきた・・・)
正直、切風に反論しても勝てないことを偉炎は重々承知している。そもそもあの楽観的な性格の前では意味がないのだ。ここまで来たら、あと必要なのは覚悟だけである。しかし、それがなかなか難しいのだ。実際のところ、偉炎が拳銃を拾ってまだ二時間も経っていない。そんな中で学校に全速力で向かい、自殺を図り、切風に会い、人殺しをしようとしている。全てにおいて偉炎は限界なのだ。これ以上どうしたらいいのか本人は知る由もない。
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