第二十一話
そんな時、切風が唐突に語り始めた。
「偉炎、君の気持ちもわかる。」
切風が始めて偉炎の名前を口にした。
「だけどよく考えてほしい。もし、ここで君がやらないと体育館で始業式をしている一年生から三年生までの全校生徒、先生、そして式に参加している関係者全てが赤虎組によって大きな被害にあうだろう。もしかしたら、怪我人出るかもしれない。そして今、後輩の生徒がさらわれてようとしている。それは君の中の普通を壊してしまうのではないか?それは本当に偉炎、君が望むことかい?」
偉炎は切風がこの数秒間で話した内容にビビってしまった。そして心の奥底をえぐり取られた気分になっていた。
(切風はなんで僕が普通に生きたいということを知っている?!)
切風は続ける。
「私は望まない。ねえ偉炎。これはあくまで私の考えだけど、自分の作りたい世界を心に抱いたならそれを実現するために行動を起こさなければならないと思っている。違うかな?」
(僕の作りたい世界、それは普通が手に入る世界・・・)
「ただ世界が自分の思うように動いてくれるというのは間違いだ。」
偉炎は、自分の心の中で世界を創造した。
「なら動かないと。この思い通りにならない世界で唯一動かせるのは、己の行動だけだよ。」
(そして、それを実現するために・・・赤虎組は邪魔だ!)
偉炎は、覚悟を決めた。
「できる!僕はやる。もう逃げたりしない。」
「いいね!男らしくなったじゃん!二十年早く生まれていたら惚れていたかも!」
切風が笑えない冗談を笑いながら言う。
「いや、切風を彼女にするなら死ぬ方がまし。」
「え?まじ・・・」
偉炎の素朴な答えに切風はかなり悲しんだ様子になった。
(本気ではないよな・・・)
偉炎は少し怖くなった。切風の態度は基本的に自由奔放であるがさっき見せたように真面目に語る場面もある。だから偉炎にとって彼女の言葉一つ一つにどういう意味を込めているのか探る必要があった。
「それより偉炎、君は覚悟を決めた。それでは次の段階として私の持つ情報を時間が許す限り教えてあげる。今つけているARコンタクトを外して。」
「え?」
「いいから早く早く!」
「分かった・・・」
偉炎は切風に言われた通り、朝つけたARコンタクトを外した。
「よし!そしたらこれつけてー。」
切風はそういうと屋上のフェンス際にあったリュックサックからコンタクトカプセルを二つ持ってきて偉炎に渡した。パッケージには黒と水色の何とも言えない絵柄と小さくてとても読めそうにない説明が書かれてあった。なんとも怪しいコンタクトである。
「これって大丈夫なの?明らかに市販で売られてないよね。」
「ふふ♡もちろんこれは特別製よ。」
「・・・」
切風はおそらく特別製であることを強調して安全性を主張したかったのかもしれないがそれは偉炎にとっては逆効果であることは言うまでもないだろう。それでも偉炎はコンタクトを両目につけた。
その瞬間、偉炎の見える景色がすべて青色に変わった。それはまるで海の中で目を開けた時の感覚そのものだった。
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