第十七話

「っ!」

 偉炎は身体の血が引くのを感じた。こんなに小さな体なのになぜここまで威圧感を出せるのか分からない。しかし、切風が普通の人間ではないことぐらい偉炎は容易に理解することができた。そして、偉炎は今ここで切風の意見を素直に聞くことが、自分が生き残ることができるただ一つの方法であることを理解した。これは理論的とか合理的とかでない、本能的なものである。

しばらくお互いが無言になった。気まずいとかいうレベルではない。本気の殺し合いをしているような雰囲気であった。切風はそんなことを気にせず、増々強い殺気を放っている。恐らく、偉炎の倍以上生きているためこのような緊迫した場面を山ほど経験してきたのだろう。一方、偉炎は全身が凍り付いていた。もちろんこれは比喩表現であるものの彼は切風という恐怖に心から震えていた。そしてついに耐え切れず、偉炎の方から降参した。

「・・・わかった。要求を飲むよ。」

 いわゆる敗北宣言というやつだ。そしてそれに対する切風の反応は意外にもあっけなかった。

「よーし、えらいえらい。分かればよろしい!」

 偉炎が要求を飲んだのと分かったのと同時に切風はまた能天気な口調に戻る。その表情の切り替えしは見事なものであった。果たして彼女の中にはいくつの心が存在するのだろうか。

切風は偉炎に近づく。そして、低身長ながらもかかとを上げながら、彼の頭を撫でた。切風の大人びた匂いが偉炎の周りに充満する。

(なんか複雑・・・)

 偉炎はその瞬間、少しだけ男子高校生に戻った。

「ではさっそく、今回のターゲットと作戦を発表したいと思います。はい拍手!」

二人のたわいのないスキンシップが終わると、切風は両手を上に挙げて、はしゃぎながら偉炎に拍手を求めた。

(この女、本当に僕の倍以上生きているのか・・・どう見ても年下だろ・・・)

偉炎は変な情報を頭に付け加えながら、切風応じて仕方なく軽く手を叩いた。

「まずはターゲットから。やっぱりまずはこれを知らないと。」

(来た!これから僕が殺す標的・・・)

偉炎は緊張した。それもそうだ、人生で初めて人を殺すのだから。普段は培養肉を食べ、室内に侵入してきた虫なども清浄機や汎用性ロボットが撃退してくれる現代において自分以外の生命を絶つという様子を目の当たりにすることが少ない。そして、それを自分で行うのはもっと少ないだろう。そんな現代人の偉炎はこれから生命を、しかも同種の人間を絶とうとしているのだ。無理もない。

心臓の鼓動が上がる。

「ターゲットは・・・」

(いったい誰だ!)


「赤虎組のチンピラでーす!」


「赤虎組だって!」

偉炎はこのとき自分がこれから入り込む世界の大きさをまだ完璧には把握できていなかった。

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