第十五話、十六話

青い空が広がる。事件も騒動も焦りも恐怖も、そして変な奴もない、青色だけだった。あまりの美しさに偉炎はあの世についてしまったと錯覚してしまった。

 しかし、神は偉炎を天国へは導いたりしなかったようだ。どうやらあの世に送るにはまだ早いらしい。

「・・・ん、は!」

 偉炎はようやく目を大きく開いて覚醒した。そして、自分が空に向かって仰向けになっていることに気づく。

(そうだ!確か僕は拳銃が見つからないようにするために体育館にある茂みに隠れてその後は・・・)

 どうやら彼は気絶する直前の出来事を鮮明には思い起こせないようだ。これは失神した時にその少し前の記憶がなくなるのと同じ症状だろう。

 そんなことより偉炎が最も驚いたのは自分が今いる場所である。そこは町一帯を見渡すことができる何とも素晴らしい場所だった。周りにドローンは飛んでおらず、東には海と接する港、西には隣の町と繋がる山々、北には偉炎が住む商店街、南はビルなどが並ぶオフィス街が見える。偉炎はこの場所を不思議に思った。

「え?どこだ?」

そして、その思いをうっかり口に出してしまった。その時だった。

「お!やっと起きたかー!よく寝むれたかい?とりあえずおはよう!」


絶望へと叩き落す声が聞こえた。声の主はもちろん切風叶、さっき偉炎の腕を蹴り飛ばし、偉炎が気絶しているのを見下ろしながら笑っていた女である。そして今も仰向けになっている偉炎を見ながらニヤニヤしている。

「そんなことよりもここはどこだ?」

 偉炎は起き上がりながら、切風に対して素朴な疑問をした。

「えーとね、校舎の屋上。」

二人がいる場所は校舎の屋上だった。丘の上にあるこの学校であるためそこから町全体を見渡すことができるのだ。

しかし、普段ここは出入り禁止である。校則にもそのことは明記されている。屋上には巨大な太陽光発電システムがあるため生徒が近づくことはとても危険だからだ。そして、そんなところにいる時点で普通を貫き通したい偉炎にとっては、あってはならない事態である。偉炎は切風に屋上にいる理由を問い詰めようとした。

「ちょっと待て。確かここって立ち入り禁止じゃ・・・」

「はいそこ!面倒くさいことは気にしない!」

「・・・・・・」

だが切風はそんな彼の質問を一言で一蹴した。恐らく彼女の頭の中には「校則」というものがないのだろう。

その途端、偉炎は思い出した。忘れてはいけない、切風が偉炎に頼んだことを。偉炎の中に再び憤怒の感情が芽生える。

(人殺しを依頼されるなんてまっぴらごめんだ。この女は人の命をどう見ていやがる。)

 切風は相変わらず涼しい顔をしている。

(頭もかなり動くようになってきたし今なら正面から質疑応答できそうだ。)

 彼は外の風景を見ている切風の正面に立った。

「お!どうした急に?そんなに私の顔が見たいのかい?しょうがないな~。」

「なんでこんなところに僕を連れて来た?」

「え?いや、これから君がやることの準備をするためだよ。」

「だから!なんで僕が人殺しなんかを。」

「それはほら、君のやってしまったことを隠蔽するためだよ。」

「それがおかしい!そもそも、僕は拳銃を所持していたわけではない!たまたま拾ってしまっただけだ。それに仮に隠蔽するとしても、人を殺めたなら隠蔽どころの騒ぎではなくなるだろ!」

「大丈夫!それも隠蔽するから。」

「真面目に答えろよ!」

 数回の口論の末、偉炎はついに堪忍袋の緒が切れたのか切れ気味に怒鳴った。


その瞬間、風がかなり強く吹いた。


「真面目に答えているだろ。調子に乗るなよ、犯罪者が。」

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