第十三話

最後まで言おうとしたその時、偉炎は切風から殺意に近いものが送られてきたのを感じた。おそらく年齢の相応した呼称を言おうとしたのが切風の怒りに触れたのだろう。かなり年齢を気にしているらしい。見た目では怒っていないものの、眉間にしわを寄せて今にもさきほどの蹴りを食らわせる勢いだった。

(やばい!悪い意図はなかったけど余計なことを言ってしまった!)

 普段から言葉には気を付けている偉炎だがさすがに言い過ぎたと反省した。そして偉炎は話を逸らすため敬語で返す。

「つまり、僕は何をすればいいのでしょうか?」

敬語で質問された切風の顔に笑顔が戻った。それを見て偉炎は安心する。

(良かったー。これでまた普通に戻れ・・・)

しかし、この後切風は偉炎に対してとんでもないことを要求する。それは理性のある人間なら決して行わない、この世で最もやってはいけないことだった。


「えーとね・・・人殺し。」


一瞬で偉炎は切風に敬語を使うことを辞めた。

「え!は!それってつまり・・・」

「そう!君が拾ったこの拳銃で人を撃って欲しい。そうすれば今回の件はなしにしてあげる。」

偉炎はいきなりの発言によって切風に対する怒りという新たな感情が生まれた。そんなことをしたら普通に戻れなくなり、背理であるということは明らかである。そもそも人殺しなど拳銃を持っていること以上に許されない行為であることは偉炎自身が充分に理解していた。

(こいつは何をほざいている・・・) 

 二人の眼光が鋭くなる。

 

しかし次の途端、彼の体と心は突如として委縮してしまった。というのも偉炎の心の中に怒りと共に恐怖の感情が芽生えてしまったのだ。おそらく、切風の言葉を真に受けてしまったのだろう。普段なら嘘であると判断して解決できるのだが、商店街での出来事、そして現在の偉炎の心身の状況では切風の言葉を真に受け止めてしまうのも仕方がないだろう。

(そんなこと・・・できない・・・)


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