第十一話

偉炎は考えるのを辞めた。

「もう無理だ・・・どうやったって普通に戻れない・・・」

 全身に入っていた力が抜け、脱力した状態なる。

「頑張った、僕はもう充分にがんばった。あとは・・・もうどうでもいいや。」

 そして、今の自分を作ってくれた過去の自分に感謝した。もちろん今日の頑張りだけではない。十年前に自転車に乗れるようになった自分、五年前に苦手なインゲンを食べられるようになった自分、一年前にバスケットボール部で一回戦を勝利に導いた自分、一週間前にコーヒーに砂糖と間違えて、塩を入れてしまった自分・・・要は全てだ。

「さて・・・」

 偉炎は地面に落としてしまったカバンの中から拳銃を取り出し、頭に向けた。

 本来など、拳銃を発砲したぐらいで自殺しようと思わないのが普通だ。事情を話せば何とかなるし、それで退学や刑事罰が与えられることは可能性としてはかなり低いだろう。しかし、もう遅いのだ。偉炎はすでに冷静ではない。たまに、一時の葛藤でとんでもないことをする人がいる。賭けで負けた人、人からバカにされてしまった人、ちょっとした出来事で人生が終わってしまったと自覚する人・・・そのうちの一人に偉炎が入っていただけだ。


商店街での発砲でセーフティーはすべて解除されている。あとは引き金を引くだけ。偉炎は満面の笑みを浮かべた。その顔はまるで悪魔のそれだった。


「さようなら。」


その時だった。

偉炎の近くで凄まじい旋風が巻き起こった。

「何!」

疲れ切っている偉炎でさえ、それをすぐに理解できた。旋風の中心に人間がいるということ、そして、物凄い速さで近づいてくること。

その者は茂みの中にいる偉炎に確実に接近するため、茂みの手前で走っている勢いそのままに飛んだ。

「え、えー!」

 そして、偉炎が情けない叫びをあげる頃にはその者は右足で拳銃を蹴り上げていた。その蹴りの衝撃があまりに強かったのか偉炎はその場でバランスを崩し、ひざまずく形になった。結果として彼は助かったのだ。どうやら彼の人生はまだ終わっていないらしい。

偉炎は尻を地面につけながら、自分の手を蹴り上げた人がどのような人なのかを目視した。天候もよく、日差しがあるためその姿を拝むのにそんなに苦労することはなかった。

「な!」

この時偉炎は二つの意味で驚いた。もう一つがその者が女性であること、もう一つは見た目が明らかに変な姿であったことだ。呆然とする偉炎に対してその女性は先ほどの自殺する直前の偉炎とは比べものにならないほどの満面の笑みでこう言った。


「私はあなたを助ける方法を知っている。」

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