第十話

春風が吹き上げる。それは茂みを掻き消すのではないかというぐらい盛大であった。


茂みに隠れることができた偉炎はさっそくこの後の行動を考えることにした。

「とりあえず、この茂に拳銃を隠して教室に入るか・・・いや、それだとリスクが高い。今日の始業式は体育館で行われる。そうなると見つかってしまう可能背が高い。」

まず、拳銃を偉炎が今いる茂みの中に隠すことを考えた。しかし、それは即却下。なぜなら今日は始業式である。そして、これを行うため学校中の生徒が体育館に向かうため、その途中で茂みを通過する。つまり、例え茂みとはいえ見つかる可能性が高いのだ。もし、見つかってしまった場合、指紋等で身元がばれるのは容易に想定できた。

「ここで拳銃を破壊してしまうか?いや、そもそも拳銃ってとても頑丈じゃなかったっけ?今手元にあるもので破壊することは可能か・・・いや、できないな。」

次に、拳銃を破壊して証拠という証拠を隠滅する作戦だ。しかし、それも却下。拳銃というのはスチール合金やステンレスといった耐久性の高い成分が使われている。そうでないと発射の際に壊れてしまうからだ。それを破壊すること現在の偉炎にはできないだろう。


焦りが生じる。汗が再び生じる。他にも策はあるかもしれないが偉炎の頭はそこまで冴えていない。体の自由を手にしてからまだ三十分も経っていないし、今朝の出来事で疲労がかなり溜まっている。そんな状況今の局面を乗り越えるのは厳しいと言っていいだろう。

「やはり警軍に渡すのが一番いいのか?いや、警軍は危ない。おそらく僕が不法所持しているとみなして、逮捕、もしくは補導されるのが尽きだろう。」

 最後に、隠すことを諦めて警軍に渡すことを考えたが、残念ながらこれも却下。偉炎は警軍をあまり信頼していなかった。確かに現在の日本の治安を維持しているということは事実だ。しかし、腐敗しきった財閥至上主義の国の下で組織されている警軍は数十年前まであった警察と違い、独断と偏見がひどい。公平や誠実などは二の次で組織として気に食わない存在があれば主観で制裁を下すこともある。そのため、偉炎は拳銃を警軍に渡すことをどうしても認めることができなかった。それに・・・何でもない、というかここで話しておくべきことではない。

「とりあえず、ARコンタクトを使って調べるか・・・」

 偉炎はひとまず知恵を借りるため、コマンドマイクに向かって今の状況をARコンタクトで撮影するとともに打開策を調べさせようとした。しかし、コマンドマイクに話しかけようとした瞬間、偉炎はそれを緊急的に中止した。

「何やっているんだ!ここで録画なんてしたら自分から拳銃を持っていることをばらしているようなものじゃないか!」

 今の時代、画像や動画は撮影した途端、ハードウェアがいつでも停止してもいいようにインターネットに保存される。もし、それが誰かにみられてでもしたらそれこそ終わりだ。まさしく自分の首を自分でしめているのと同義だ。そのため、外部からの情報に頼ることはできない。

「どうしよう・・・何も出来ない!せっかくここまで来たのに!!」

万策尽きたとはこのことだ。

その瞬間、頭の中の何かがプツンと切れた。それは実際に音に出ていないものの確かに偉炎には聞こえた。それは命綱が切れたような悪い意味で豪快な音だった。


諦めのサインだ。

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