第八話
次に、学校がある坂を下るために、その坂と商店街の出口をつなぐ信号を駆け抜ける。運のいい事に偉炎が渡ろうとした瞬間に青信号に切り替わったためそこで時間がつぶされることはなかった。ARコンタクトに表示されているマップに描かれている自身の現在地が動き続ける。
(よし!順調!)
偉炎のギアが上がる。
そして、山場ともいえる例の地獄坂が偉炎の前に現れた。彼は二か月ぶりに見るその坂が最後に見た時よりも急斜面になっているように感じたものの、登らない選択肢などなかった。
(公道にいるのはまずい!やっぱりまずは学校に向かわないと!!)
「・・・サポートよろしく」
「「かしこまりました。坂のため前傾姿勢を意識してください。また、体勢の安定のため歩幅を縮めて走行してください。速度を再計算します。」」
ARコンタクトに新たな情報が更新される。偉炎はそれに従って走り続けた。彼の息がさらに荒くなる。
ちなみに時刻は八時二十分を過ぎてしまっている。そのため、この時点で偉炎は遅刻が確定し、小学校から積み上げてきた無遅刻無欠席記録は止まってしまった。
「「ここから三十秒間、歩きながら息を整えてください。その後の坂道は下腿三頭筋を使うので太股付近には十分に注意してください。」」
「うん、後半の説明はよく分からない!」
地獄坂の中間まで走ると偉炎は適度に休憩し、最後の力を振り絞ってその坂を登った。とにかく体を動かした。なんてことない昨日まで自身にあった普通を取り戻すためである。
走ってから十分近く経っただろうか。偉炎はついに学校の正門が見えるところまで来た。
(よし!やっと着いたぞ!!)
かつてない程の達成感と喜びが彼の心を包み込んだ。
(やり切った・・・!誰にも拳銃を持っていることを気づかさないでここまで来たぞ、この広星高校に!)
彼は走るのをやめ、そのまま正門の前に向かって歩き始めた。色々と事情は入り込んでいるものの偉炎の第二学年としての初登校はこうして始まった。
私立広星高校。ここは偉炎の住む町に二つしかない高校のうちの一つである。全校生徒は三五八名。丘の上一帯を高校が所持しているため敷地面積がかなり広い。そのため課外活動として自家農園での野菜作りや化学実験室などが見られる。もちろん、校内の設備は整っており、教室や体育館、校庭など一般的なところ以外に最先端技術を操作できるATR(advance technology room)という場所やリクリエーションを楽しむ広場まである。正直かなり条件のそろっている高校であることは間違いない。欠点といえば、偉炎が大好きな油そばとゆで卵を食堂で販売していないことぐらいだろう。
偉炎は正門付近に着くとARコンタクトに表示されている現在時刻を確認した。ちなみに広星高校では生徒は授業を受けるためにARコンタクト等の機器の使用を許可されている。そして校則をある程度守っていれば何をしてもいいし、何を持ち込んでもいい。当然、コマンドマイクやリストデバイスも許されるわけだが拳銃は・・・ダメだというのは校則に書かれていなくてもわかるだろう。
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