第七話
しかし、偉炎はここで奇跡が起きていることを自覚する。
(あれ?今喋れたような・・・。)
試しに声を発してみる。
「・・・あ」
次に体を動かせるか試すため腕を振り回す。
(体が・・・動かせる!)
その瞬間、偉炎は何かから解放された気分になった。拳銃が鳴らす快音で目が覚めたのだろうか。それとも普通で居続けた過去の自分がもう一度、今の彼をもとの道に引きずり込んだのだろうか。
「まだ終わってない!」
偉炎は即座に行動を開始した。運がいいことに撃ってしまった位置は商店街の出口付近ということもあり彼が目視できる範囲に人はいなかった。
「よし!」
偉炎は無意識にそう叫ぶと早速行動を開始した。まず。ゴミ箱付近を捜索して撃った拳銃の弾を回収した。撃ってから数秒しか経っていないためゴミ箱がある狭い道の端にある銃弾をすぐに見つけることができた。次に、外からは見えないように拳銃をバックの中に突っ込んだ。始業式のためあまり中身を入れていないバックは拳銃を入れるのに十分の空きがあった。
(この状態なら不審に思われない。)
最後になぜか電源が落ちていたコマンドマイクを起動し、それに向かって話し始めた。
「今の身体の様態は?!とりあえず学校に行くまでの体力はあるか?」
「「身体の疲労があるもののこの距離なら登校することは可能です。」」
「よし!ランニングアプリを起動してここから学校までの距離を計算しつつ、今の僕の体力で最速で学校に到着するプランを立てろ!」
「「了解しました・・・計測完了。休憩をはさんで十五分ほどで到着いたします。」」
「分かった。サポートよろしく。」
「「了解しました。ではまず分速300メートルで走ってください。スピードメーターをARコンタクトに表示します。」」
偉炎は電子機器を利用しつつ学校に向かって走った。日頃バスケットボール部で入っていた甲斐があり心身が疲れ果てていた状態でもなんとか足を前に踏み出すことができた。
まずは、商店街を抜けた。偉炎はいた場所は元々商店街の出口付近だったためそれは容易にできた。偉炎の息が上がり始める。
次に、学校がある坂を下るために、その坂と商店街の出口をつなぐ信号を駆け抜けた。運のいい事に偉炎が渡ろうとした瞬間に青信号に切り替わったためそこで時間がつぶされることはなかった。ARコンタクトに表示されているマップに描かれている自身の現在地が動き続ける。
(よし!順調!)
偉炎のギアが上がる。
そして、山場ともいえる例の地獄坂が偉炎の前に現れた。彼は二か月ぶりに見るその坂が最後に見た時よりも急斜面になっているように感じたものの、登らない選択肢などなかった。
(公道にいるのはまずい!やっぱりまずは学校に向かわないと!!)
「・・・サポートよろしく」
「「かしこまりました。坂のため前傾姿勢を意識してください。また、体勢の安定のため歩幅を縮めて走行してください。速度を再計算します。」」
ARコンタクトに新たな情報が更新される。偉炎はそれに従って走り続けた。彼の息がさらに荒くなる。
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