第14話 焦らずに
全日本選手権への最後の狭き門である東日本選手権が始まった。
前日の滑走順抽選の結果は後半の第四グループの五番目になって、良い順番になって良かったなと思っている。
最終グループでなくて良かったと考えている。
「それじゃあ。
「はい」
第二グループが始まった頃にわたしは会場に入って、ウォーミングアップをしていく。
ちなみに結城ひまわり杯で優勝していた
あと
そのことに後で気がついて全日本でしか会えないとわかって、かなり恥ずかしくなってしまったのを覚えている。
咲良ちゃんはグランプリシリーズのカナダ大会に出場することになっているのでこちらには出ていない。
国際大会との日程が近かったり被っていると予選が免除されるトップ選手が少なからずいる。
そのことは気にせずにイヤホンをつけて、ウォーミングアップをしていこうと考えている。
『十二番、
アナウンスが聞こえてくると、とても楽しそうなことを考えていることがわかっていた。
浦和の藍ちゃんは関東選手権で優勝した子で、全日本でも十位になった。
流れてきたのは雅楽の音色が聞こえてきた。
その音色を聞いてからストレッチを始めていく。
誰かの得点がアナウンスされて、思わず見てしまうことがあるけど……考えるのはやめようと考えた。
それで自分を追い込みすぎてしまいそうになるから。
ショートプログラムではジュニア一年目と同じ構成で行うことになる。
ようやくフィジカルがもとに戻ったなと感じていたの。
そろそろ第三グループの六分間練習が始まろうとしていたので、衣装を着替えようとして更衣室へと向かうことにした。
メイクをトイレの化粧スペースで先にしてから行くことにしたの。
「そろそろ着替えてこよう」
衣装と髪飾りをしてからは更衣室から出てくると見慣れた顔が見えたの。
「え?
それは高校のクラスメイトの佐伯さんがいて、隣には仲の良い伊藤さんと平野さん、
普段制服でしか会わないけど……わたしのことを見て驚きの表情を見せている。
「え。
「東日本選手権に出る選手として来てるの。第四グループ」
それを聞いて驚いたように顔を見合わせてひそひそと佐伯さん以外の三人が話しているのが見えた。
まだニヤついたような顔のままで。
それを見てすぐきわたしは加藤先生のいる場所へ向かった。
第四グループの六分間練習が始まろうとしていて、第三グループの選手の得点がアナウンスされていた。
スケートシューズに靴紐を結んでいるのを確認してから、リズミカルな音楽が流れてきて手拍子が起きていく。
『これより第四グループの選手の方は練習を開始いたします。練習時間は六分です』
わたしはジャージを脱いで選手の合間を縫ってジャンプの練習を始める。
難しいトリプルルッツを跳ぶと、大きな歓声と拍手が聞こえてきた。
そのときにきれいに跳べたのがうれしくなって、すぐに勢いに乗せて練習していくの。
『滑走順に選手をご紹介します』
滑走順に名前と所属先がアナウンスされるけど、一人抜けているのに気がついた人も多い。
十九番目に滑る子が棄権していて、このグループは五人で滑ることになっている。
それからしばらくしてスピードを上げて、最大の得点源であるトリプルフリップ+トリプルループのコンビネーションジャンプを跳んだときだ。
『二十三番、星宮清華さん、
「清華ちゃん。ガンバー‼」
「がんばれ~!」
選手紹介しているアナウンスと声援が聞こえたけど動揺せずにきれいに着氷することができたの。
きれいな着氷ができたのがとても良かった。
さらに他のジャンプを跳んでから、リンクの中心で難しい入り方のフライングコンビネーションスピンを始めていく。
さらにレイバックスピンをしてから、先生のもとへ向かう。
「清華さん。今日はとても良い調子だね、もう一度だけダブルアクセルを跳んでもらえないかな? あと、軸は作るだけってイメージしてね」
「はい」
もう一度それを意識してダブルアクセルを跳ぶと、夏合宿のように軽い感覚で着氷することができた。
「よしっ!」
先生も納得しているような表情をしていて、残り時間は一分になって来ていた。
わたしはトリプルルッツのコンビネーションジャンプに挑戦してみることにした。
正しい重心でトリプルルッツを跳びあがってから、すぐに着氷してから右足の外側のエッジに乗ってループジャンプを踏み切った。
三回転は回りきったものの、両足着氷してから勢い余って後ろに転倒してしまったけど練習すれば成功する気がしてきたの。
でも、このショートではきちんと練習したとおりに演技をしていくことが良いと感じていた。
『練習時間終了です。選手の方はリンクにお上がりください』
そのアナウンスが聞こえて、先生からジャージとエッジケースをもらいエッジを被せて、通路裏で再びウォーミングアップを始めることにしたの。
佐伯さんたちの姿はジャッジ席の真後ろにいたのが見えたけど、パンフレットを見ながら何かを話していたの。
佐伯さんによく似た女性が一緒に何かを教えているみたいだ。
そのことは考えずにわたしはイヤホンをつけて、プログラムの振付を確認していくことにした。
『十九番、
その名前には聞き覚えがあって、確かお母さんがアメリカ人でお父さんが沖縄出身だった気がする。
ジュニア時代に一緒の大会に出たことがあったけど、とてもジャンプの飛距離がとても大きい子なんだ。
今シーズン、カレンちゃんもシニアに上がってきたんだ。
それからしばらくして、もう残り二人になってからスケートシューズを履いていく。
「清華さん。そろそろ時間だね」
「はい。今日はとても楽しくできると思います」
「そうだね。それじゃあ、行こう」
そのときに高木
とてもきれいで演技を完璧に終えることができたみたいだ。
彼女の演技が終わると、すぐにリンクに入って滑って、ジャンプを一度だけ滑ることにした。
『高木さんの得点――現在の順位は第一位です』
わたしは心がドキドキしていくことが感じてきている。
緊張してはいるけど、たぶん楽に演技ができると思っている。
「清華さん。安心していけば問題ないよ。思い切って行っちゃえ!」
「はい!」
『二十三番、星宮清華さん。東原FSC』
先生とハイタッチをしてからすぐにリンクの中央に向かう。
「清華ちゃん、がんばれ~!」
「ガンバ~‼」
その声援がいろんなところから聞こえてくる。
応援してくれる人がいるのはとてもうれしい。
見ている人に楽しいと思える、そんな演技をしていきたい。
勢いよく止まってポーズを取って、曲が流れるのを待つ。
流れてきたのは特徴的なドラムソロが流れてきて、楽しげな振付をしてからリンクを右にカーブしてから最初のジャンプであるトリプルルッツを跳ぶ予定だった。
跳びあがったのはトリプルフリップだったのに気がついたときには、きれいに降りることができた後の有名なフレーズが流れてきたことだった。
焦ってしまってヤバいって考えていたけど、そのあとに一か八か六分間練習でチャレンジしたコンビネーションジャンプに変更することにした。
慌てずにきれいなススケーティングを重視して、勢いに乗って演技を続けていくんだ。
そのままスピンをして、すぐにステップシークエンスを始める。
わたしが表現したいことが一気に伸ばしていくことができて、とても好きな場面ができるのがうれしくなってくる。
ステップシークエンスが終わりを意味するようにキャメルスピンをしてからダブルアクセルを跳んでいくことができたの。
最後にトリプルルッツのコンビネーションジャンプを跳ぶことを決めた。
でも、足が疲れてきているけど……跳ぶしかないと考えた。
トリプルルッツを跳んで、さらにトリプルループを跳びあがったけど回転が足りずに転倒してしまったの。
すぐにレイバックスピンをして終わったけど、息を切らしながらお辞儀をして先生のもとへ向かう。
「よかったよ。フリップ、間違えちゃったけど大丈夫だよ」
「はい……でも、わたしができることはしました……」
転倒した影響もありながら得点は暫定二位ではあるけど、最終グループに残ることは難しいなと考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます