第15話 全日本への演技
自分はトリプルルッツのコンビネーションジャンプでミスがあったけど最終グループに残れた。
ショートプログラムの順位は五位で通過することができたのが奇跡だ。
ショートプログラムの二位になっているのは高木
一位は市川りらちゃんでこのまま優勝をしようとしている。
まだ油断はできなくて、気持ちを引き締めていかないといけない。
シニア女子のフリーは翌日行われていて、いまは第二グループまで進んでいるの。
わたしはフリーでノーミス以上の演技をしないと全日本へは進めない。
実は東日本選手権が狭き門となっているのは全日本へ進めるのがわずか上位六人ほどしかいないからだ。
西日本の方が進出する強い選手が多いのもあって、ここで残れたらとても良いってことになっている。
でも……ずっと行きたいって思っていた場所でもある。
もし、シニアの全日本はジュニア一年目のときに全日本ジュニアで四位を取って、推薦出場という形で出場した以来で三年ぶりの出場ができるんだと考えている。
次々に選手がフリーの演技をしていく間にわたしは体を温めるために走ったり、ヨガマットでストレッチや柔軟などをすることができるようになったの。
だんだんと体がポカポカしてきて、振付の練習をすることになった。
「
「はい! わかりました」
すぐに衣装に着替えてリンクサイドに出たときだった。
ちょうど仙台の伊達桔花ちゃんが演技を始めようとしていたの。
アラビア風のパンツスタイルの衣装でだいたいの演目が予想できた。
『十八番、
そのアナウンスが聞こえてきて、観客席からも応援の声や拍手が聞こえてくるの。
演技を始めるためにポーズをしてから、曲がしだいに流れてくる。
曲は『アラジン』で使っているのはディズニー映画の実写版の方で、聞き慣れたメロディーが流れてきてすぐにジャンプを跳ぶ姿勢に入っていく。
「桔花ちゃん……セカンドジャンプ、トリプルループだ」
それがきれいなトリプルルループ+トリプルループのコンビネーションジャンプで、それを見て声が出てきそうなくらい驚いてしまった。
それに観客席にいる人たちもざわめいているのがわかった。
演技には自信に満ち溢れた表情でこちらを見ている。
ランプの魔人のパートになってきてから、おなじみのナンバーに手拍子がわいているんだ。
彼女の演技があっという間に終わりに向かっていくけど、最後のダブルアクセルが転倒してしまったのが一番惜しくなっていたの。
「惜しいな……」
最後のスピンも間に合わないまま、演技を終えてしまったような感じだった。
桔花ちゃんの得点がコールされて、暫定一位だけど本人は納得していないみたいだった。
「それじゃあ、すぐに練習しよう」
『第四グループの選手の方は練習を開始してください――』
これで全日本への切符をつかむことが決まる。
みんな表情が緊張しているように見えて、心臓がとてもドクン、ドクンと波打っている。
羽織っていたジャージを脱いで、エッジケースを外して先生に渡していく。
「いってらっしゃい。清華さん」
「はい」
わたしは先生に背中を押されるようにリンクへと入って練習を始めていく。
六分間練習がスタートすると、声援が聞こえてくる。
わたしはトリプルルッツを丁寧に降りて、わくわくした気持ちになって来た。
トリプルフリップ+トリプルループのコンビネーションジャンプを跳ぶ。
このジャンプは着氷した右足で踏み切るのでかなり難しい。
お父さんが得意としていたセカンドジャンプにトリプルループを持ってくることに憧れていて、それを真似するように練習をしてジュニア時代から武器として持っていたの。
それを今シーズンから武器にすることができるのがうれしい。
氷の感覚も悪くないのでジャンプはきれいに跳べるかもしれない。
わたしはフリーで使うジャンプを成功させて、加藤先生のもとへ歩いて行くことができた。
「清華さん。いい感じだね。でも、軸が安定してない感じだと思う」
「はい。わかりました……」
「それじゃあ。次にスピンと練習をしてからだね」
スピンを練習するためにスペースを見つけて、フライングキャメルスピンはとてもハマっていたからいい感じだ。
残り一分になってショートプログラム二位のカレンちゃんが大きなジャンプを跳んできている。
さらに新しいジャンプを跳んでいるように見えた。
「すごい……カレンちゃん」
「ほんとだ、あれ四回転じゃ」
そのときに跳んでいたのは四回転トウループで、とても高さと幅のあるジャンプで転倒していたけど平気そうな表情している。
それを見てとてもドキドキしてきた。
逆に闘志に火がついたかもしれない。
自分はもう大丈夫だと信じていたいのに、できるか不安になってくるの悪い癖が出てきた。
六分間練習が終わって、滑走順は二番目なのでスケートシューズを履いたまま練習をしていく。
リンクサイドに出ると、拍手がしだいに流れてきたんだ。
ショートプログラム六位のりらちゃんの演技が終わって、得点がコールされている。
『十九番、星宮清華さん。東原FSC』
そのアナウンスが聞こえてきて、心臓がバクバクと波打ってきた。
もう心配はないと言い切れないけど、あのお父さんが滑っていた動画を思い出せばいい。
わたしはそう考えてリンクに立つ。
中心にきれいに立つと、きちんとポーズをして曲が始まった。
風が吹きつけてくる音が聞こえてきて、すぐにバックスケーティングでトリプルルッツへと跳ぶ。
手足が緊張して思ったように動かなくても、練習してきた感覚でジャンプを跳ぶ。
跳ぶというよりはプログラムに溶け込めるように降りていくことができるのがベスト。
ジャンプが決まったりすると、自然と笑顔のまま、滑ることができるの。
冬の精霊でも人間の世界に興味を示したり、世界に溶け込みたいと考えたりする時の振付やジャンプのつなぎを考えていた。
プログラムのジャンプ構成はあっという間に後半へとやってきた。
ステップシークエンスが始まると、手先に意識をして、左右のエッジに重心を傾けても転ばなくなってきた。
前半に組み込んだトリプルフリップ+トリプルループのコンビネーションジャンプをきれいに降りることができた。
フライングキャメルスピンをしてからはステップシークエンスがスタートした。
いまは演技に集中して一つずつ技を丁寧に成功させていく。
得点なんて気にしていない、自分が納得できるような演技ができればいいと考えていた。
あっという間にプログラムも最後になってきて、最後に跳ぶのは難易度が低い三連続だ。
レイバックスピンからのビールマンスピンをしていくと、拍手が聞こえてくるのがわかった。
最後のポーズは笑顔でジャッジ席へ両手を差し出すようにして終わった。
ミスなんて一度もない、完璧な演技ができたの。
息を切らしながらリンクサイドへ上がって、キスアンドクライへと向かって歩いて行く。
「清華さん。とても良かったよ、変更してよかったね」
「はい……」
汗と息が落ち着いてきて、タオルをモミモミしながら得点を見る。
そうしないと少し冷静にできないと思っていたんだ。
得点が出る時間がやたらと長かった。
『星宮さんの得点──現在の順位は第一位です』
その後にアナウンスされたのは自己ベストを更新したもので、得点は桔花ちゃんを大幅に抜いて一位になっている。
「よし! このままだったら、全日本に行けると思うよ」
それを聞いてとても良かった。
その後の演技をする選手を見ていると自分の得点が抜かれなくて、心臓がドキドキしたまま演技をしていくのを見守っていたの。
ショートプログラム三位のカレンちゃんの得点が終わって、まだ暫定一位になっていて信じられない気持ちでいっぱいだった。
カレンちゃんはジャンプが後半で失敗してしまったの。
「まだ抜かされてない……」
「清華ちゃん! すごいじゃねえか」
隣には千裕くんがびっくりした表情でこっちを見ていたの。
「若干怖いんだよ……ショート一位はりらちゃんだから」
優実さんの得点が出てから、信じられない気持ちで泣きそうになる。
もうここで表彰台が確定している、もう全日本選手権へとすることがわかっていた。
最後の市川りらちゃんの得点が出て、涙が溢れてしまったの。
「おめでとう。表彰台、二位はすごいじゃん」
「うそでしょ……」
わたしは東日本選手権で二位になった。
夢にまで見た全日本選手権への切符を手にすることが確実だった。
【#1 完】
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