第4話 合宿初日の夜
「お疲れさまでした!」
「みんな、忘れ物をしないでね~」
「は~い」
リンクにはそれぞれのあいさつがこだまして響き渡っていた。
でも、その声は整氷車がリンクに滑っていく音でかき消されてしまう。
すでに体のあちこちが筋肉痛になりかけていて、明日は絶対にそうなっているかも。
午後七時半すぎ、初日の練習が終わったばかりだ。
ベンチでスケートシューズを脱いでタオルで足を拭いて、新しい靴下に履き替えてからスニーカーを履く。
ジャンプをするときに普段とは違う感じで跳んでいたこともあって、少し翌朝は筋肉痛になりそうな感じだなと思っている。
「あ、
同じAグループの友香ちゃんとグループは違うけど同い年の伶菜ちゃんがやってきた。
わたしはそのあとに同じグループにいた
「栞奈ちゃんと紗耶香ちゃん。久しぶり、ひまわり杯以来だね」
「うん。お疲れ様」
四人はほぼ同じ時期からスケートを始めたらしいので、幼なじみに近い関係で一番仲の良い友だちみたいな感じになっていた。
わたしはリンクに上がってロッカーに預けていた荷物を持って、リンクから宿泊施設の方へ向かう。
この建物は一階と二階部分を使っていて、三階がミーティングルームと事務室。
四階にはダンススタジオとトレーニングルームがあって、ここで陸上トレーニングやバレエレッスンをしたりしている。
五階には食堂と浴場があって、六階と七階が宿泊室になっている。
そこで合宿に来たクラブ員や万が一地震などの災害で、帰宅が困難になった場合の一時避難場所になっている。
建物の四階まではよく使っているけど、それより上の階は合宿のときしか使ったことがない。
七階に到着すると、そこはホテルのような廊下が続いている。
それを見て栞奈ちゃんと紗耶香ちゃんがキョロキョロしていたんだ。
「毎年思うけど……ここってホテルみたいだね」
「うん」
しばらく歩くと部屋割り表に書かれた部屋番号が見えて、そこのドアを開けて部屋に入った。
部屋割りは年齢で分けられている。
わたしと同じ部屋なのは伶菜ちゃんと友香ちゃん、栞奈ちゃんと紗耶香ちゃん、クローバー小平FSCの
第一印象は影がある雰囲気の子だなと感じていた。
「あ、文花ちゃん。今日からよろしくね」
「……お願いします」
高校一年生で紗耶香ちゃんと同い年なんだけど、敬語を使ってしまうみたいだった。
彼女は高校一年生だけど、伶菜ちゃんと同じDグループに入っているのがわかっている。
「敬語は大丈夫だから、ここにいるのは全員高校生だし」
「はい……」
それを見て栞奈ちゃんと伶菜ちゃんが優しく話しかけている。
そのまま彼女は荷物を片づけるためにクローゼットのような収納の方に背を向けている。
文花ちゃんは一瞬嫌な表情をしていたようなことをしていた気がするけど、あまり関わりたくないのかなと感じているのかもしれない。
「
「うん。今日は動いたしね」
わたしはどちらかと言うとご飯を食べて練習をするとすぐにお腹が減ってしまうタイプで、少し多めに食べてしまいがちになるのをコントロールしないといけないなと感じている。
「そろそろご飯だね。六階に行こう」
わたしたちは階段で六階まで下りていくとしだいにクラブの子が増えてきたんだ。
そんななかで後ろから文花ちゃんがついてくるけど、あまり楽しくないような表情をしているのは明らかだった。
食堂ではみんなが指定された席に座って、互いに話し合ったりしている。
きちんと栄養士さんが考えたメニューでとてもおいしそうな料理が並んでいる。
「いただきます」
部屋ごとにご飯を食べるテーブルに分かれて、ご飯を食べ始めたばかりだ。
わたしは最初に苦手なトマトを食べて、すぐにみそ汁で飲み込む感じで食べ終えると、ご飯とおかずのハンバーグを食べていく。
普段食べる家のご飯とは違う味で、とてもおいしくてすぐに食べ終えてしまった。
わたしは最後のデザートを食べ終えると、もうお腹がいっぱいになって緑茶を飲んで時間を待つことにしたの。
奥にいる男子グループはおかわりをしたりしている子もちらほらいる。
「清華ちゃん。ご飯、おいしかったね」
「うん! めっちゃ」
ご飯を食べ終えてデザートを食べている伶菜ちゃんが笑顔できれいになった食器を見ていた。
そのときに文花ちゃんも完食をして、少しホッとしたような表情をしているのが見えた。
それを見て少しだけホッとしたところで、クローバー小平FSCのヘッドコーチをしている
「――それでは。ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした!」
ご飯が終われば部屋ごとに時間がずれているけど、だいたい三十分くらいで入浴時間。
入浴が終われば部屋で布団を二列に寝てても話し合えるような敷き方をして、全員かわいいルームウェアやパジャマになったりして寝る準備をしていた。
わたし一人を除いては……中学時代の青のジャージの長ズボンにシンプルな白い半袖Tシャツを着て、布団の上で柔軟をしていた。
「今日はさすがに話す気力がないよね」
「うん……さすがに疲れたもんね」
今日はみんなも疲れているみたいで、すぐに寝ることにしたんだ。
明日もあるので寝ることにしたんだ。
隣は伶菜ちゃんで向かい側には文花ちゃんと一瞬、目が合ったけどそのまま布団を被って寝てしまったんだ。
向かい側からも寝息が聞こえてきて、わたしも布団を被ってすぐに寝てしまった。
合宿で感じていたことがすぐに消えていって、何となくざわざわした気持ちがまだ心に残っていた。
翌朝、向かい側にはきれいに畳まれた布団が置かれてあって、文花ちゃんの姿が見えない。
「う~ん。おはよう、伶菜ちゃん」
「おはよう……よく寝た」
そのときに練習着に着替えている文花ちゃんが戻って来た。
「文花ちゃん。おはよう」
「お、おはようございます、清華ちゃん」
びっくりしながら話していたけど、彼女は少し安心したような表情をしているみたいだった。
「はい、それじゃあ。みんな、準備を始めよう! 遅刻するよ」
「ヤバい。あと三十分で朝ご飯だよ! 急がなきゃ」
バタバタと慌てて支度を始めたわたしたちを見て、文花ちゃんはびっくりしてポカーンとしているのが見えた。
その声にわたしたちも慌てて着替えたり髪を結ったりしている。
歯磨きと洗顔をしてから、荷物を持って食堂に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます