第3話 夏合宿
七月の下旬、夏休みに突入して各地のフィギュアスケートクラブでは合宿が行われることが多い。
夏合宿は
さらに全員が泊まることができる宿泊施設も併設されているので、家の近所で合宿が行われることになるの。
この合宿では他のクラブの先生から教わったり、クラブの子と一緒に練習することでとても刺激になったりすることが多い。
東原
わたしはシニアとジュニアのグループに入って、安定していないトリプルルッツ、フリップの成功率を試合でも練習みたいに跳べるようにしたいと考えている。
そのグループにいたのはジュニア時代に地方予選で会ったことがあって、とても懐かしいメンバーが集まっていた。
ストレッチをしていると、見慣れた顔がこっちにやってくるのが見えた。
ヨガマットを片手にやって来たのは女の子が二人と男の子が一人で千裕くんと話しているのが見えた。
「あ、
「
陣内FSCの
「久しぶりに会えてよかったよ。なかなか一緒の大会に出れてなかったから」
「栞奈ちゃんは今シーズン、シニアデビューだよね」
「うん。清華ちゃん、
栞奈ちゃんはジュニアの頃から第一線で活躍していた選手で、全日本ジュニアは二連覇で全日本選手権に推薦出場でも上位入賞していることがあったんだ。
ジュニア三年目の紗耶香ちゃんも全日本ジュニアに出場していて、今年のジュニアグランプリシリーズに出場することが決まっている。
薫くんは
それを見て、栞奈ちゃんと紗耶香ちゃん、
まずはスケーティング練習から始まって、そのあとにスピンなどの基礎の練習。
これは東原FSCの大西先生が考案したもので、元アイスダンスの選手だった先生がスケーティング重視の練習メニューを作ったりすることがあった。
でも、シングル出身の先生に教わっているクラブの子たちはまずスケーティング練習の多さにびっくりするかもしれない。
そのなかで栞奈ちゃんや薫くんの肩がしだいに下がってきているのを指摘されている。
わたしは息が少し上がって来たけど、丁寧なスケーティングができる選手になりたいと思っていたからこの練習はまじめにやっている。
「あ~、疲れた……スケーティング練習、いつもこんな感じなの?」
「うん。普段はもう少し短いスパンで行くけど」
「すごいな……清華ちゃん。どうりで東原ってスケーティングがとても上手い子がいるよね」
「うん」
お昼ご飯を食べてから再び練習を始めることになったんだけど、今度はグループに分かれて各自の練習をすることになっている。
シニアとジュニアグがAグループ、ノービスがBグループ、その他にバッジテストの初級から三級がCグループ、四級から六級までがDグループという振り分け方になった。
「それじゃあ。Aグループ集まって~。これからジャンプの練習を始めるよ」
ジャンプを教わるのはクローバー小平に所属している
先生はとても楽しそうに教えてくれるので、練習するのがとても楽しい。
かつて男子シングルの選手として全日本選手権で三連覇、ジャンプも四回転トウループを武器に世界と戦っていたんだ。
十年前に現役を引退してから幼い頃からずっと通っていたクラブにコーチとして働いている。
「それじゃあ。これからジャンプの指導していきたいと思います」
「はい。よろしくお願いします」
最初はジャンプの回転数を上げて、ジャンプを跳び始めた。
トウループ、サルコウ、ループ、フリップ、ルッツ、アクセルの順番でジャンプをしていくけど、最後のダブルアクセルを跳び終えて先生がわたしを呼んだ。
「清華ちゃん。ちょっと来てほしい」
「はい! わかりました」
「清華ちゃんは脇と足をもう少し引き締める意識をしてみたら?」
「はい」
わたしはもう一度ジャンプを跳ぶと、いつもより余裕を持ってリンクへ降りることができた。
いつもと違うのがわかって、背筋がゾワッとした……いい意味でだ。
「いいよ! その感覚を忘れないでね」
「はい。ありがとうございます」
大野先生がわたしのことを見て、その後に呼んだのは四回転トウループを跳んだ
「佑李くん。トリプルルッツを跳んでくれない?」
「わかりました」
スピードに乗って重心を左足の外側に置いて、右足で踏み切ってトリプルルッツ。
ジャンプの高さと幅があって、着氷した瞬間にスゥーッと後ろに滑っていくのがきれい。
「佑李くん……きれいに跳ぶね~」
「うん。お手本にしたい」
薫くんと千裕くんは何か情報共有しているみたいで、一度シングルジャンプを跳んでいる。
そのあとにすぐにスピードに乗って跳んだのはきれいなトリプルアクセル、薫くんはとても笑顔で呆然としていた。
わたしはもう一度、練習のためにトリプルルッツとトリプルフリップを跳ぶことにした。
最初にトリプルルッツを跳ぶことにして、三回転を回りきってから何の乱れもなく着氷することができる。
「わあ、清華ちゃんのルッツ、きれいだな」
「そう言えば、栞奈ちゃんはジャンプ跳ばないの?」
「うん。跳ぶよ、練習してるジャンプをね」
栞奈ちゃんは水を飲んでから滑り始めると、すぐにトップスピードになって跳ぶ。
それはきれいなトリプルルッツ+トリプルトウループ、彼女の得意なコンビネーションジャンプでとても演技のなかに溶け込んだジャンプの跳び方をするんだ。
わたしもあんな感じで跳べるようにしたい、もっとコンビネーションジャンプのレパートリーを増やしていきたいと思っている。
トリプルジャンプはアクセル以外の五種類は跳べるようになっている。
難易度がアクセルに近いフリップとルッツの二つは成功率が低くなってしまうことがある。
でも、ジャンプを跳ぶことは好きだけど……どうしてもフリップとルッツがパンクしたりしてしまう。
同じクラブの
それを見てしまうとかなり焦ってしまう。
ブロック大会まで残り二か月、それまでにとは思っているけど、それが余計にだ。
このまま合宿でトリプルフリップとトリプルルッツを安定させるのが難しいなと思う。
「清華はすごいな」
お父さんにそう言われるような演技をしたいと頑張っているのに、上手く結果が出せないのが歯がゆい。
あと一回、ジャンプができそうだと感じた。
「それじゃあ。みんな、上がって~、各自部屋割りの場所に行くこと」
「は~い」
呼ばれたグループはリンクから出ると、各自の部屋へと向かう準備をした。
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