外ゥー

URABE

タトゥーの歴史的背景



タトゥーの歴史を探ろうと、新宿にある紀伊國屋書店を訪れた。自ら本を買うことなど滅多にないわたし。必要に迫られて購入するときは、Amazonでワンクリックすれば翌日には手元に届くわけで、わざわざ本屋へ行ってまで本を買おうとは思わない。




しかし本屋というのは、広々とし空間に本がギュウギュウ詰めになっていて面白い。さらに独特な存在感と匂いを纏っているのも心地良い。


紀伊國屋書店の本店である新宿店は、地上8階地下1階さらに別館まで抱える大所帯で、本の在庫数は120万冊。一生どころか、何度生まれ変わっても読み切れない量だから諦めもつく。




この膨大な在庫からお目当ての本を探すには、各階に設置された端末で検索すれば一発。ただしタトゥー関連の本は種類が少ない上に店頭在庫がない場合も多い。


せっかくここまで来たのだから、手に取らなければ意味がないので「在庫あり」を必死に目で追う。




(うぅむ。読み比べたいが「在庫なし」が多すぎる。タイトルに賭けるしかない)




こうなったらタイトルで決めるのが無難。わたしは一冊の単行本に目を付けた。その名も、


「縄文時代にタトゥーはあったのか」


という斬新かつキャッチーなネーミング。タイトルでそそられるから、間違いなくキメてくれるだろう。







わたしは「タトゥーの是非」について、どうでもいいしどっちでもいい派。入れたきゃ入れればいいし、入れたくなければ入れなければいい。他人の選択にいちいち首を突っ込む必要もないからだ。


だが歴史上、それなりの変遷を辿って今があるわけで、「なるほど」ともらしてしまうような時代背景を知ることができたのは、ラッキーだった。




ちなみにこの本を読んで思ったのは、


「タトゥー入れてる人は反社だ!」


という先入観を植え付けたのは、昭和時代の任侠映画の影響が大きいということ。


さらにさかのぼること1872年、違式詿違条例(いしきかいいじょうれい)という軽微な犯罪を取り締まる刑罰法が東京で施行され、彫師がイレズミを彫ることや、客としてイレズミを入れることが禁じられた。これにより「タトゥー=犯罪者」というレッテルを貼られるようになったことも、黒い影を落とす要因となったようだ。




しかしながらタトゥーを悪とする姿勢は、わりと最近の風潮ともいえる。なぜなら、太古の昔から日本にはタトゥー文化が存在していたからだ。


三世紀末、中国で書かれた歴史書「三国志」の一部である「魏志倭人伝」に、なんとタトゥーの記述が出てくるから驚いた。黥面文身(げいめんぶんしん)という記述があり、黥面は「顔面へのタトゥー」、文身は「身体へのタトゥー」を意味するのだそう(ケロッピー前田「縄文時代にタトゥーはあったのか」p35)。その黥面や文身を施した海人(文中では「水人」と記載)が、海に潜って魚貝を採取していたと書かれている。




その後、着物を着るようになったり美意識の変化があったりで、タトゥーを入れる文化は一時衰退する。だが再び江戸時代に「火消し」や「鳶」といった職人が、身体にタトゥーを入れるようになった。この理由として、職業柄ほぼ裸で作業をする彼らは、衣服で着飾るかわりに自らの身体にタトゥーを入れることで、裸を見せないプライドや美学を表していたようだ。


さらにその当時「職業・ヤクザ」の人たちもタトゥーを入れていたが、ヤクザという存在が21世紀の今とは違っていたことは十分に考慮すべきだろう。




しかしその反面、黥刑(げいけい)という刑罰が作られ、罪人は額や腕に印を刻まれることで、一生消えない「犯罪者の烙印」を押された。このことから、タトゥーは「社会的スティグマ」として見られるようになったわけだ。




鳶職人や火消しの兄ちゃん、ヤクザ者に犯罪者――。


一般市民からしたら、その威勢のよさや脅しの怖さに「一目置く存在」であることは間違いない。つまり、なんとなく嫌な人たちであり、自分たちとは違う"あぶれ者"であると認識していたのだろう。







海外におけるタトゥー文化も似たような経緯はある。だが明らかに違うのは、タトゥーは単なるファッションではなく、そこには民族としての誇りや意味、願いが込められていることだ。




また呪術的側面も見られるタトゥーだが、古代では医療目的で用いられていた事実も確認されている。


1991年にアルプスで発見された男性ミイラ、通称「アイスマン」は、今から5300年前に生きていた人物。そのミイラには61カ所のタトゥーがあり、なんとその場所が鍼治療のツボの位置だったのだ。


現在でも関節炎やリウマチの緩和のために、タトゥーを入れる文化を持つ民族は存在する。




これらの事実を知り、


「ほら見ろ、やっぱりタトゥーは悪くないじゃないか!」


と気炎を吐く人もいるだろう。ならばキミは、ボルネオ島かセントローレンス島で生活することをお勧めしよう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

外ゥー URABE @uraberica

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ