家族の縁を願って
ー 十二月三十一日、夜。
それからの大晦日を、私は友人達と過ごすようになり、誰かの家に押しかけて、食事にくだらない会話を交えながら年を越す、それが毎年の恒例となった。いつも、年越しの頃には疲れ果てていて、または酔いが回っていて、皆寝てしまっていることが多いのだけれど。
その日もまた、楽しい時間はあっという間に過ぎ、私が携帯電話で時計を確認した頃にはもう、新年は、あとたったの二時間というところまで迫っていた。
「そういえばさ、皆は年越し蕎麦って食べてた?」
静けさを増したワンルームの部屋に、自分の声が微かに響く。その言葉は、アルコールが回って寝惚け眼になっていた私の口から、何気なく溢れたものだった。
「うちは別に食べてなかったな、意味もよくわからないし。」
それに賛同する声が、続々と聞こえる。
…皆は意外と食べていなかったのか。
私は興味なさげにそう呟いた後、襲い来る睡魔に負けて、瞼を閉じた。
しかしその時、一人の友人が口を開いた。
「俺のとこは食べてたよ。」
私は、今更の返答に肩透かしを喰らってしまったが、それを知ってか知らずか、彼は話を続けた。
「なんで年越しに蕎麦を食べるかっていろいろ説があるらしいんだけど、俺のとこは、家族の縁が長く続くようにっていう意味を込めて、今年もありがとうなんて言いながら食べてたな。」
思い出に浸る彼に、友人達は彼を茶化す言葉を投げかける。しかしそんな彼らとは打って変わって、私の記憶には、あの時の年越し蕎麦が鮮明に蘇っていた。
そして次の瞬間、私は徐に立ち上がって、友人たちにこう告げた。
… ちょっと、年越し蕎麦買ってくるわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます