Melancholy Monday

 よし、「Melancholy Monday」と送ってみよう。メランコリックマンデー、つまりは憂鬱な月曜日。彼女のTwitterに上がっていた「偽書MacGuffin」の中に、「この書を信用する同志の合言葉」として書かれていた言葉だ。これならば、もしかすると反応があるかもしれない。

 カタカタとキーボードを叩き、さっそくDMを送信する。


 反応はあるだろうか。

 とりあえず、AI Dollsのガチャをもう一度回して、それから仕事に戻ろう。DMの返信や追加課金については、それらが片付いてから考えるんだ。


 私はベッドの上からスマートフォンを取り上げ、立ち上げたままのゲームアプリへ意識を集中させていった。



 …………………………


 ………………


 …………


 ……


 …



「や、やった! ユミハハロウィンSSR!」

 ガチャを1度だけ回すつもりだった私は、気がつけば数時間ほどゲームに夢中になっていた。ガチャを回すための石を稼ぐミッションをいくつかこなせば、更に追加でガチャを回せる事に気づいたのが運の尽き。時間は溶けたが、ユミハを手に入れたので悔いはない。

 ボーイッシュな私服や普段の衣装とは違う、フリルを多用した魔女風ミニドレス。細い足にオレンジと黒のボーダーニーソックスが眩しい。直視できない。

 手に入れた彼女を育てるのは明日以降の楽しみにして、今度こそ仕事にしよう。

 私はスマホを充電器の上に置き、パソコンの前に戻った。


 仕事用のファイルを開きながら、ちらっとTwitterを開いているモニタに目をやる。すると、DMが届いていた。

 数時間前に送ったDMのことを思い出した。返信が来たのだろうか。

 DMを開いてみると、眉國サヱコからの返信だった。



 あなたもハロウィンの儀式を実行しようとしているんですか?

 もしそうなら、一度お会いできませんか?

 10月30日に下見を兼ねて渋谷に行こうと思っているので、30日の13時に渋谷駅ハチ公前でお待ちしています。例の本を持っています。



 たっぷり3回はDMを読み返した。

「ハロウィンの儀式」「渋谷」「例の本」。何のことだ?

 例の本というのは、あの偽書MacGuffinのことだろう。だが、ハロウィンの儀式とは何だろう。それに、どうして渋谷で待ち合わせなのだろう。

 眉國サヱコは、同じ本を持っていると勘違いしているに違いない。私が「Melancholy Monday」という言葉を彼女に送ったから。自分が上げた写真の隅に写り込んでいただけだというのに。

 訂正してしまえば、薄っすらと芽生えた彼女の信用がゼロになるのは間違いない。そうすれば、このDMの誘いも無に帰すだろう。


 彼女に会ってみよう。

 会って何の話をするのかは自分でもわからない。

 でも、なんだか胸騒ぎがするのだ。

 彼女が言うところの「ハロウィンの儀式」が、なにか問題を引き起こすような気がした。

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