第1.5話

 東京に住んでいた紗枝は高速を使って車を飛ばした。およそ東京駅から鼓草駅までは高速を利用して6時間弱かかる。かなり遠いが車で来る場合は給料をアップするという事だったので、紗枝はためらいも無く車で向かう選択をした。


日本の東と西は随分空気が変わる。生えている植物だろうか、土のにおいか、食べ物の匂いか、地域差どころではない差がこの東と西にはある。


 車を運転している何もない時間、どうしても昔のことを思い出す。音楽で成功するために上京したのはいいものの、結局は失敗しいくつかの企業を転々とするしかなかった。実家にも帰っていない。今は紆余曲折あって繋と知り合ってマネージャーになり、稼ぎも悪くないが彼女の性格がクソ過ぎて嫌気もさしていた。


 電話が鳴る。通話はすぐにスピーカーに切り替えた。120kmで飛ばす車内で片手運転は流石に怖い。電話の相手は繋だった。



「あー聞こえてる?今そっちは何時かな?」


 お前も同じ日本に住んでいるだろうがと思いつつ、時刻を確認する。夜の11時だ。どうりで眠いわけだ。次の道の駅で休んだ方がいいだろうか。


「時刻ぐらい確認して。で、何の用?あたし、車飛ばしてるんだけど」


「まぁまぁ、カリカリしなさんな。眠気覚ましに私の歌声でもいかが?」


 カチンときて、通話を切るボタンに手を伸ばす。しかし、繋は見えていないはずの状況を察した。


「待って、待って!今の内に何をするのか話しておこうと思っただけなんだよ!」


 伸ばしていた指を元に戻す。窓を少し開けると猛烈な風が入ってきて慌てて閉めた。


「簡潔に話して。詳細をさっさと知りたいの」


 語気が強まる。椅子にちょこんと正座して委縮している繋の姿がなんとなく想像できた。実際はまったく凝りていないのだが。


「こっちについてからのお楽しみ!」


 ブツッ


「こぉぉんの!いい加減にしろぉぉぉぁぁぁ!」


 その後、電話から音声が聞こえなくなっていた。不思議に思ったが通話が終了しているようなので、そっとしておくことにした。いや、違うな。これ、あたしが思わず切っちまったのか。ん、どっちだ?


「ま、いっか」


 鼻歌を鳴らしながら、運転に集中する。夜の運転は怖い部分もあるが、高速道路を走っている内はまだましだ。ハチャメチャな田舎道だと、これは道ですか?と英語の教科書の例文をそのまま日本語訳したような場所もある。それに比べれば、まだ安心だ。


 はぁ、朝日が昇る前についたらいいな。120kmで飛ばしていると、深夜の高速道路でも車を簡単に追い越す。今も、目前の大型トラックを追い越しそうだった。妻夫木物流と書かれたその車体は暗闇の中、巨体に見合った馬力のエンジン音を拭かせて暗闇を突っ走る。


「すごいなー」


 深夜に走るのはこれぐらいだろう。私は一回きりだし我慢するか。うん。こういう人たちがいるから今の時代に荷物がすぐに届くのだ。トラック運転手に敬礼をし、紗枝はさらにアクセルを踏み込んだ。













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月曜日更新の予定でしたが第2章完結まで毎日いたします。よろしくお願いいたします。

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