武蔵野世界

白鴉

武蔵野世界

 空付くから嫌ではない。潮の匂いを求めても、透明な水を揺らす。風の匂いが鼻に突かなくて、指が求めてる。

 窮屈は自由だ。挟まれて、押されて、嵌められて。ドラム缶が血塗れでも許される。溢れたお湯が心地好いから。流れに任せて、行ける。

 しらばっくれるな。

 求めたパワードスーツも、脱力感も何も手に入っていない。レールは歩いているだけで作られてない。錆び付いた、味感のあるそれだけ。着飾っても、着こなしていなければただ着られているだけだ。呑み込まれている。

 最先端とは憧れる優越感。やっと届いた手の先を指していて、出来る限り近付けても辿り着くことはできない。コピーは劣化品、前時代は下位互換だ。常に人々を魅了する。ゆえに孤高。

 自然とは日常だ。再確認する日常と表現すべきかもしれない。子供の頃は感じていて、大人になったら感じない失われた第六感とは違って、あえて確認しようと呼び覚まそうとしても視えず、普通を意識すると現れるものではない。とある一点を見つめる感覚を交錯して、身体中に目が生えたシマウマのようになって。全てに見られて、見ている感覚になった所を全感覚遮断する。そうして目を開けると見える世界だ。木々が生えていようと無かろうと、空気の美味しさでもない。心の透き通った見え様が再確認する日常であり、ゆえに自然だ。

 最先端を目指して、木々を守るだけ。どっち付かず、間違えのある終わりのない日常を作って何の意味がある。これが私だ、と甘えてかまける必要はない。

 リミッターは私で居られるためにある。心許ない私を縛るためにある。私でいられない私にならないためにある。そんなものは道化だ。指先で立って、跳び跳ねておもいっきり転んで。地面を舐めて手クセに任せて進めばいい。

 頭で考えるな。本能で外れろ。

 今あるナチュラルもバイタリティも変えなくていい。もっと貪欲でいい。勝ち誇った中心を、触れもしない。

 打ち負かせ。変えて見せろ。

 一歩踏み込むだけでぴりつく。強張るではない高揚する肌。まるで勝手に連れ込まれているような、でも嫌じゃない。むしろ溶けていたい。私という身体が求めている自然。

 東京の一地域ではない。田舎でも都会でも、中途半端なんて表せない。別の世界に伸ばすのだ。


 『MUSASHINO』 

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武蔵野世界 白鴉 @tyoyasyo

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