第4話
撫でた。膝の上の猫をひたすら撫で続けた。あごに手をやり、のどを撫でるとコロコロ、ゴロロと嬉しそうにする。ざりざりと僕の手を舐めるのを見て思いつく。
そっと彼を降ろし、コンビニへ歩き出し、ミャーと鳴かれ後ろ髪ひかれながらも軽い足取り。吐く息は白く、朝の街の空気は冷たいが気持ちいい。僕は満たされていた。
一番大きな猫缶と自分用に肉まんを買い、袋はもらわず上着のポケットに入れて戻った。
少し不安だったが、白猫はごみ捨て場で待っていた。わずかに傾いだ首が可愛く、あぐらをかくとすぐに乗ってきた。猫缶を開けると、くんくと鼻を近づけ、そろりそろりと食べ始めた。この上なく幸せな気持ちになり、忘れていた自分の肉まんを取り出すと、あぐらと猫の間でつぶれていた。
瞬間、肉まんのぺしゃんこが自分と重なり、こみ上げる笑いと涙を抑えつつ肉まんを食べた。ぺしゃんこを飲み込んでやった。
白猫は傷を負いながらも、ふっくら立派なまんじゅうだった。
しばらくすると、白猫は丸くなった身体を起こし、ごみ捨て場から見える街の様子を、僕と同じ景色を黙って見つめた。僕らは旧知ではあったが、即席の友情で、当時はお互い精いっぱいだった冬を、巣立ちで傷ついたもの同士温め合っていた。
その日以降、明け方の寒空のごみ捨て場で、僕がチッチ、プップと口を鳴らすと、物陰から白猫がサッとやってきて、二人で過ごすようになった。時には数分、ある時はケーキ屋の室外機が轟音を鳴らすまで小一時間、膝の上で猫を撫でる事ができるようになった。
プップと呼んで、待っててと合図して、コンビニで猫缶を買ってくる。眼を閉じあむあむと食べ、あごをしゃくりゴクリと飲み込む姿は母猫と似ていて、お母さんはどうしているだろうねなどと声をかけつつ、食べ終わったら膝に乗せた。
白猫のケガも次第によくなり、猫缶は大家さんにバレないようごみ捨て場にそのまま捨てていた。
後日僕は絵の仕事を再開し、あらたな挑戦と挫折の日々を過ごしている。
何かができると思い、なにもできないまま、何もしないわけでもなく。
白猫はいつの間にか現れなくなり、僕も彼に執着しなかった。
今思うと、たぶん白猫はオスだろう。気が付けばいつもこちらに顔を向いていたし、心が通じるとそういうことは気にならないのか、お尻や股の間を見るのは無粋な気がして見なかった。
彼からもらったあの時間は、まだ僕に温い余熱を残している。
白猫と、ファミマのにくまん 小川ガワヲ @epan39
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