第3話

 秋を迎え、アパートでは住人の猫に与える餌が問題になっていた。大家さんは勝手に餌をやらないようにと張り紙をし、シロの食事とごみをきちんと管理していた。

 住人たちから可愛がられ、可愛がられ過ぎて太り、少し瘦せ始めたシロ。一方のブチ君は大家さんに大変気に入られ、5階に住む大家さんの家の中で飼う事になったらしく、たまに階段の踊り場で見せる姿はますます太っていた。

 自転車置き場には成長した子猫とシロだけになり、何匹もいた子猫もどこにいったのか、3匹まで減っていた。子猫たちに向かって口を尖らせ、チッチ、プップと聞こえるように呼んでみると、白猫だけが僕に反応し顔を向けてくれた。

 子猫たちは大家さんからあまり好かれておらず、中でも真っ白の子猫は痩せてほとんど餌をもらえてないように見えた。

 好かれていないというか、手に余ったのだろう。大家さんと住人で里親を探したらしく、3匹の子猫のうち茶色と灰色の猫はもらわれていき、母親のシロはしだいに姿を見せなくなった。遠くから見るだけで満足し、ほとんど触れてこなかった僕をよそに、猫たちは次々消えていった。


 冬も近づいた寒い夜、危機迫った人間の赤ん坊が泣き叫ぶような、尋常ではないギャーという鳴き声。何度も聞いてるうち猫だと気づき、僕はベランダから乗り出して見慣れたビルの塀を見下ろし様子を伺った。喧嘩とはどこか違う、繁殖期のそれとも異なる鳴き声に僕は恐怖を覚えた。

 暗闇に目を凝らしどこから聞こえるか探ったが、決着がついたのか鳴き声はぴたと止み、ややあって、

 シン…とした暗闇から聞こえてきたのは、向かいのビルの風呂場で響く男女のこもった喘ぎ声。僕は無性にやるせなくなり、でもしばらく聞き耳を立て、そっと部屋に戻った。


 翌早朝に目覚め、コンビニで朝食を買おうと階段を下りると、顔と肩に傷を負い、錆び色の血のついた白猫が、シロの子が、よろよろとこちらへ歩いてくる。

 いままでシロを撫でた事も数度しかない僕に、白猫はまとわりつき、か細く鳴き、凍えている。

 抱き上げ膝の上に乗せると丸くなり、僕の体温で徐々に温まっていく。猫好きの僕が生まれて初めて抱いた、ほど良くおもたい白毛玉。だっこしたままごみ捨て場まで行き、ごみ置き場のやや高くなった石淵に腰を掛け、白猫を腹と少し膝を起こしたあぐらの間に乗せて温める。

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