第30話

帰り道は沈黙が支配していた。まるで二人の間に壁があるように、光と影が交われないような、当たり前のように壁があった。この女は一体何を考えているんだろう。私よりも先にまたねなんて言っちゃって。

それにしても今日の祐くんは違和感があった。今日も、というのが正しいのかもしれないけど、今日ほど強烈なのは初めてだ。

悶々と考えているうちに駅まで着いてしまった。この女のためとは言え、なぜこんなに遠出しなければいけないんだ。

「じゃあね、新橋さん。また明日ね。」

そう言って、返事をする前に行ってしまった。この女もそうだ。何も掴めないような存在。きっと祐くんが変わったのも原因はこいつだ。

私とは違う真っ直ぐに伸びた背筋。小さな顔に大きな目。形のいい唇にはほんのりとラメが施されている。まるで高貴なお姫様、とでも言おうか。私には届かないような。でも、祐くんのことは私の方が知っている。大丈夫。負けるわけがない、いや、負けたくない。あの人の光には私がなる。

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