第22話

誰かと楽しく過ごす。そのことがいつしか嫌いになった。俺の親のことを聞いてくるのもいれば、露骨に避けるのもいた。そんなやつらにまで時間を割くほど暇もなければ、心の耐久性もなかった。だから俺は閉ざした。心に壁を作り扉に鍵をかけて誰も入れないようにしていた。いつしか錆びついて取れなくなっていたけど気にもしなかった。そうして誰も入れない中に閉じ込めた。怖かったんだ。聞かれるのも避けられるのも。怖くて、誰かに助けを求めたくて。それでも誰も助けてくれなくて。誰にも近づきたくなくて、近づいてほしくなくて。もう何年もかけて作り上げた壁なのに。“僕”はいとも簡単に壊してしまった。温もりを求めて、人との関わりを求めていた。だから俺は嫌なんだ。あいつのことが嫌いだ。

誰かと楽しく過ごしたい。たったそれだけのことで壁は壊れてしまった。それはきっと、君が求めていたんじゃないかって僕は思う。君自身がそう思っていたからあんなに脆い壁ができたんだよ。何年かけても無駄だったんだ。だって君は、本当は僕に怒っているんじゃないでしょ?1人にした僕じゃなくて、独りにした親を憎んでいるんでしょ?あの日、自分を捨てたお母さんとか、何もしてくれなかったお父さんとか、自分を憐んだ周りの人を。雨の中探しに行って、やっと見つけた時に撥ねられて。あの時に感じた君の心は凄まじい炎だったよ。打ち付ける雨とは正反対の、紅紫をした感情。君のその心が、感情が、僕の寒さを凌ぐ唯一の手段だったからよく覚えているよ。もう気づいてるはずだよね。今さらその復讐を狙っても無駄だったことにも、もうこれ以上人と関わらないことに意味はないってことにも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る