第18話

何も怖くない。この人たちにおびえることなんて何もない。こんなにも暖かいのに。僕は勝手に怖がっていた。きっと前の僕も。人を怖がり、関わることを嫌って、避けていたから、みんなも同じように僕を嫌っていたんだ。変わらなきゃいけない。このままじゃいけない。人の対応を変えてほしければ自分が変わらないと。これは二人の試練だ。僕と僕の。二人で一人の。


お前なんかにできるのか。

できるかどうかじゃない。やらなきゃいけないんだ。


「やらなきゃ...いけない...。」

「なんかいったか?祐」

あ、つい声が漏れてしまった。

「いや、独り言。気にしないでいいよ。蓮。」

名前で呼ばれたことに驚いたのか、僕の言葉はどうやら豆鉄砲に変化したようだ。

「お前...思い出したのか?名前で...。」

「いや、残念なことに思い出してはいないです。ただ、前のようにおびえていては変わらないと思ったので。やれることをやっていこうかなと。ってことで改めてよろしくな。蓮。」

二発目の豆鉄砲だったみたいだ。してやったり。

学校までの道のりで話す。前の僕はどうだったんだろうか。この人の前では話していたんだろうか。なあ?


教室に着く。今日は昨日のように警戒することもなく、自然な動作でドアを開ける。ここであえて挨拶はしない。自然体を貫く。もともとなじめていなかったのだから、なじみに行く必要はない。少しずつ溶けていけばいい。背景からにじみ出ていけばいい。完全に顕現するのは今じゃない。僕にできることをやればいい。


とにかく陰にいる。隅っこに、いる。ただそれは明らかに近づいている。

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