第16話

部屋の状態は心の表れ。前の僕はかなり荒んでいたらしい。破かれたプリントや壊れたものがそのまま引き出しに残っている。どこまで荒れていたのか、見当もつかない。しかし今の僕に受け継がれているものもある。昔に好きだった人に未練しかないことだ。今でさえ、昔病院に居た女の子のことを覚えている。前の僕は、小学校の頃の子か、ご丁寧に手紙まで書いていた。しつこいなんてレベルではなさそうだ。少し笑みがこぼれる。探してみたところ、過去の絵は全部集めてもかなり少なかった。そしてそのほとんどがあの絵だった。イメージと同じ絵。そしてそれらの絵はほぼ違わなかった。同じ色、同じ配置、違うところは雨の波紋と血の流れ方のみ。素人の僕から見てもなかなかすごいものだった。と、自分を褒めるのは置いておいて、絵を裏返す。そこには決まって「造記」と書かれていた。どういう意味なのだろうか。今は全く分からない。造られた記憶とでも言いたいのだろうか。記憶…。日記の事か?前の僕は日記も書いていた。それの話なのか…。不安になりながらも僕は日記を開いた。大したことは書いていない。日常の日記。僕が記憶をなくした日からは書かれていない。それまでは律儀に書いてあった。ただのノートに書かれているただただ日常。茜とはさっきの人か...?蓮って誰なんだ。まぁ、何を書いていたとしてもいいが、こんなにも普通の生活であるなら、今日のあの目はなんだったのだろうか。冷たく、冷え切った目。思い出すだけでも震える。日記を閉じ、表紙を見ると油性ペンで書かれた「日記」の文字。考えても仕方ないか…。とにかく、明日にもうちょっと考えてみよう。今日はおやすみ。夢で会えるといいね。名前も知らないあの時の女の子に挨拶をして僕はベッドに潜る。

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