第13話

教室の前に立つ。退院してから初めての登校。何日間もいなかったんだから、みんな心配しているよね。なんて答えればいいんだろ。少し笑うと思わず声が漏れた。その声に少し驚きつつ、教室の前のドアを開ける。その瞬間、教室の音は、まるで時が止まったように静かになった。そしてまた動き始めた。

なんなんだろう。どうしてみんな静かになったんだろう。もしかして僕何かしたのかな。そう思って隣にいた子に話しかけた。

「あの、僕何かし...」

思わずそこで口が動きを止めた。目。隣の子の、目。温もりがなく、興味もなく、ただ怒りのみが深く刻み込まれた冷たい、目。

「なに」

その子の声は教室中に響いたように聞こえた。僕がなにも答えずにいるとその子はため息と共に話していた友達に向いた。あの目は。なぜだろうか。こんなにも怖いのに、どこか懐かしいような。昔に見たことのある目だ。

「...ごめ...んなさい...」

そう口にした僕の目から熱いモノが流れた。

視界が滲む。歪んだ世界が見えた。

1日がどう経過したのかすら覚えていなかった。気がつくと教室はオレンジに染まっていて、僕は独りだった。誰一人としていない教室は静まり返っていて、心地よかった。僕は歌った。自分の作った曲じゃないから知っている人がいてもおかしくない。それでも歌った。楽しいはずなのに涙が出た。鼻声になって、情けない声で、歌った。楽しい曲のはずなのに、涙が止まらなかった。周りから見ればまさに「狂」だった。

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