第10話

雨の中の図書館は暗くそびえ立っていた。白い外壁は夜と雨によって黒くなって見える。早く行かないと遥が待ちっぱなしになってしまう。横断歩道を渡り、図書館の入り口に向かう。遥はセーターを萌え袖にして着ていた。やはり女の子の袖から見える細い指はすごく可愛らしい。そんなことはさておき、遥がこちらは気づいた。

「祐兄遅いー。風邪ひくよー。」

僕はなるべく早く優しく聞こえるように笑う。鼻で笑うことが癖になってしまっている僕が最近意識していることだ。そんな時、またあのイメージが頭の中へ滑り込んできた。頭を振って吹き飛ばす。今は関係ない。とにかく早く帰って暖まらないと。体が強かろうと弱かろうと、この寒さでは風邪をひいてしまいそうだ。図書館の入り口の門に差し掛かったその時、聞きたくない音が聞こえた。確かあれはクラスの...

「あれ?お前彩部じゃね?なーにしてんの隠キャくーん。」

「お前彼女いたんや。似合わねー。しかも図書館とか。」

最悪だ。今、遥がいる時には会いたくなかった。そのまま無視しようとした時、不意に重力が横になった。...いや横からすごい力で押された。

「きゃっ、あっ」

やけにスローモーションに見える。奴らの楽しそーな目と傾く僕の視界と、僕に押されて横断歩道の真ん中へと躍り出てしまう遥。そしてその遥に迫るトラック。

「遥!!!」

僕は傘や鞄を投げ捨て、遥とトラックの間に入る。トラックの眩しいヘッドライトがゆっくりと僕に近づく。あっ、これ、イメージと...

ドンッ!

大きな音と衝撃を体全身で受け止めて僕の体はあっけなく吹き飛んだ。地面に落ちる前、僕の目にはしゃがみこんでいて助かった遥が映った。

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