第9話

いつもの終わりが来る。日常の終わり。最近の高校生活で唯一、周りに気を遣わずに自由でいられる場所。中学棟の中を抜け、別館へと入る。ここはそもそも人気がない。人がいる時は授業と部活動のみの、美術室やら音楽室やら演劇部やら。その他色々あっても人は来ない。今年の演劇部には中一が入ったらしいが、今僕が向かっている場所、すなわち美術部は今年は入部0人だ。静かな方がいい僕にとっては好都合だが、部長や顧問は頭を悩ませている。

美術室に着き、鍵を開ける。扉を開けるとすぐさま鉛筆の匂いが漂う。僕はこの匂いが大好きだ。心を落ち着かせてくれる。僕はいつものように深呼吸をし、鞄を下ろす。準備室から自分の水彩絵の具を取り出し、筆洗に水を入れる。本来なら今日の部活動はない。だが、大会が近いということで顧問から特別に許可が降りた。パレットを開き、箱から黒色を取り出す。筆を濡らし、藍色を筆にとる。板に貼ったケント紙を青色で塗りつぶす。黒や藍色でグラデーションをつける。白や水で薄める。そして雲を描く。周りに大きく五線譜を描く。そして僕は歌い出す。自分の好きな曲。推しの曲。流行りの曲。古い曲。そして、僕は頬を濡らした。

気がつくと下校の約束の時間間近で窓の外は雨が降っていた。パレットには様々な色が出され、涙で溶けて、混ざって、暗い色を作り出していた。用具を片付けている時、ふとスマホを見る

『今日傘忘れたから一緒に帰ろ。帰るときに返信して。それまで図書館にいるから。』

と遥からメッセージが来ていた。

仕方ない。たまには遥お嬢様の僕にもなってやろうじゃないか。折りたたみの傘を広げ、図書館へと向かう。全く、学校で自習をすればわざわざ時間をかけることもないのに。遥はどうも友達がいると集中してできないらしい。そうこうしているうちに図書館はすぐそこまで迫っていた。

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