第7話

「おはよ、祐」

「祐くん、おはよう」

朝のみずみずしい空気と優しい声と、

「おはよう、二人とも。」

僕の醜い声。もう声変わりを終えた中途半端な声。自分の声だけど、ほんと殺意しか湧かないよね。

学校へ行く間に三人で沢山のことを話す。

「昨日の夜ご飯、カレーだったんだよね。でさ、弟が七味入れるーって聞かなくて、自分で入れたらカレーが真っ赤になっててさ。辛い!って口の中の七味をお茶で流そうとしてコップの中身飲んだら妹が悪戯したまんまで、麺つゆでさ。ほんとめっちゃ笑ったわ。」

この子はハンドボール部所属、月見里 蓮(やまなし れん)。少し小柄で165センチあるかどうかくらいの少し口が悪い奴。アニメや漫画が大好きでゲームは僕よりも上手いなど、おおよそ運動部には見えない肩書きを持つ彼は、一応左利きということで部活動の中でレギュラーを取るなどなかなからしい。ただし、努力は人一倍するようで、もうゲーム機の総プレイ時間は5000時間を超えているとのことだ。

茜と二人で一緒に笑っていると蓮が少し無言でこちらを見つめてきた。

「あのさ、いつも思うんだけど、祐っていつも笑ってるよな。どうやったらそんなにポジティブでいれんの?ほらやっぱ、部活で怖い顔してたらうまくいかないからさ。ちょっと教えてくれない?」

またその話か。今までに何度聞かれた質問だろう。別に聞かれたくないわけではないから、答えるけど。

「んー。別に笑ってばかりってわけじゃないよ?普通に怒ったりするし、甘えたりするし、泣いたりするし、...嫉妬も...したりするし...。ただ、学校じゃ笑ってないと、その場の雰囲気が悪くなるから、笑ってるだけだよ。」

「へー。じゃあここでも気遣ってんだな。なるほど。ありがとう!参考にしてみるよ。」

蓮には悪気がないんだろうけど、さらっと言った言葉は僕の心をざくりと抉った。だがしかし、今、心の中で広がったこの痛みは初めてのものではなかった。クラスのやつに言われた訳ではないだろう。なら、どこで言われたんだろうか?そうモヤモヤしている時、不意に茜が口を開いた。

「私その言葉聞いたことある。」

そのセリフに僕と蓮は顔を向けた。

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