第5話

目を開けると僕は大雨の真っ只中にいた。誰かを必死になって探していた。誰を探していたのかはわからない。いや、覚えていない。とにかく失いたくなかった、という感情のみが心の内を駆け巡る。コンビニの中、スーパー、パチンコ屋、路地裏。どこにもいなかった。ものすごく不安になって、辺りをきょろきょろと見回した。そして、見つけた。いた。この横断歩道を渡った先。あれだ。ものすごく喜んで走った僕の右側には眩しい光がものすごいスピードで迫っていた。

激しい衝撃と大きな音が凄惨な現場を物語っている。倒れた僕の周りに大人たちが集まってきた。必死に助けてくれようとする人。興味しかない顔をしてスマートフォンをこちらに向けている人。ああ、死ぬんだ。今までは怖いとしか感じなかったのに、実際に自分の身に起こると悲しみの方が大きかった。僕は静かに泣いた。その熱いモノは冷たい頬を伝って地面へと流れていった。


「祐兄!祐兄!何寝てんの!お風呂冷めるよ!」

そう言いながら遥はペシペシと僕の頬を叩く。もう上がったのか。カラスの行水どころではない...。

「お前は、カラスか、もっとしっかり、入れば...」

そう言ったところで頭の奥がズキっと痛んだ。思わず頭を押さえても治らない。このところ何か引っかかることがあると、すぐに頭が痛くなる。何かの病気なのか。それでも病院に行っても無駄なことだと、自分自身で一番わかっている。

思い出そうとしているんだ。無意識のうちに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る