俺、夏休みのモールで美男美女に出くわす
八月に入ってすぐ俺はまたぶらりと市内最大の駅まで出かけた。
家にあるボロバッグで良いと考えていたら
仕方なく俺は買い物に来ている。
手頃な大きさのリュックで良いや。その後もずっと使えるものにしよう。
などと考えて大型モールの玄関口をくぐったら見慣れた顔を見つけた。
そいつはただ立っていただけなのだがやたら人目をひいた。特に若い女性の。
間違いようがない。俺たち二年B組の顔であり、学園のプリンス、
なんだ? デートか?
俺は待ち合わせ相手が気になった。気になるとどうしようもない俺の性格が俺の歩調を鈍らせた。
ただ単にそっと観察するスペースがないか探しただけなのに、ちょっとした判断の迷いで俺は目についてしまった。
「
「「デートか?」」
「ちげえよ」俺は。
ハモってしまったじゃないか。
「外が暑いから」
「日に焼けるしな」
発想が似ているようで違う。いや、違うようで似ているか。渋谷は涼しい顔をしていた。
テニス部は夏季はショートテニスをしている。室内競技だ。我が
だから渋谷はほとんど日焼けしていない。日焼け止めを使っているのかもしれない。
俺は渋谷に呼び止められてしまったからしばらく立ち話をすることにした。
なお俺は渋谷と二人きりで話をした記憶はない。しかし渋谷は顔見知りなら誰とでも話ができるヤツなのだ。
「今日は
「部活の時だけだ」
渋谷の口振りでは待ち合わせ相手は前薗ではない。
「S組の集まりなのか?」俺は訊いた。
「御堂藤の仲間ではなくて
などと話をしていたら渋谷が玄関口に顔を向けた。
その先に驚くほど綺麗な少女が二人。
二人相手にするのかよ。さすが渋谷だ。
美少女の一人が渋谷を見つけてパッと明るい笑顔を見せたかと思うと駆け寄ってきた。
「
「だからその呼び方やめて」
あの渋谷が困惑している。何だこの美少女は?
「ごめんなさい、つい昔の癖で」
額出し黒髪ロング。麦わら帽子に真っ白なミニワンピ。どこかの絵本から飛び出してきた妖精か?
後から追いついてきた美女は野球帽にサングラス。白い絵模様が入った黒シャツに薄手ジーンズ姿だった。
「転ぶぞ、
「お待たせ、渋谷君」今、ウインクしたぞ。
「いつもながらお綺麗で」
「私は?」妖精美少女が渋谷を仰ぎ見る。
「もちろんきみも綺麗だよ」
「ありがとう」
さすがの渋谷もこの二人相手では圧倒されるのか。
何だかよく知らないがこの妖精美少女は身分の高い家柄の令嬢なのだろう。そして隣の女はその保護者か? それとも有能な家庭教師?
などと俺はファンタジーな妄想をした。
「ところで、そちらの眼光鋭い
俺ってそんな風に見えるのか?
それともこの人特有のいじり?
「彼はクラスメイトで、たまたま出くわしたので話をしていたのです」
「まあ」妖精美少女が俺を振り返る。
眩しすぎる。目が潰れそうだ。
「これもご縁ですわ。ご一緒しませんか?」何で俺?
「いや、俺は……」
「少しくらいなら時間があるだろう? 付き合ってくれ」
渋谷にすがるような視線を向けられ、俺は拒否できなかった。
「初めまして、
凄い名前だな。俺も人のことを言えないが。
「
「ん、東矢……さん?」
「彼女は
お見それしました、とでも言えば良かったのだろうか。
俺は間の抜けた顔で「
「センダボル?」東矢真咲が聞き返す。
ごめんね、俺の口、うまく動かないんだ。
「デッドボールみたいな言い方をしては失礼だ」
いやあんたも十分失礼だが。「死んだボール」に聞こえたのだろ?
「ここでは何ですから移動しましょう」渋谷が提案した。
渋谷の接し方からして野球帽美人の与座魚は年上、妖精美少女東矢真咲は年下だと思われた。
御堂藤のプリンスと秀星学院の美人二人。
俺はどこへ連れていかれるのだろう。
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