俺、プリンセスと紅茶を飲む①

 普通に量販されているティーバッグを使っているのにプリンセス前薗まえぞのがいれた紅茶はとてもうまい。なぜなのか俺には分からない。

小町こまち先生のはどう?」

だけど」俺はとぼけたが前薗はおそらく気づいているだろう。

 ちょっと天然でのプリンセスというイメージがあるがそれは仮面だと俺は思っている。何しろあの渋谷しぶやが手を出さない女だ。何かあるに決まっているだろう。

だったわね」前薗は天女のように微笑んだ。「何か有用なことを教えてもらっているのかしら」

「字を綺麗に書きなさい、とか」

「そうね、私もそうしたいのだけれど、綺麗に書くと遅くなってしまって時間が足りなくなるの。速く綺麗に書ける人が羨ましいわ」

村椿むらつばきとかは綺麗に書けるのだろうな」俺はさりげなく村椿の名前を出した。

 小町先生はインタビューをしろと言ったが、ふだんそういうことをしない俺がそんなことをしたら不自然だ。

 できるだけ相手に自分の意思で語らせる。それが鉄則だ。

「村椿さんは頭の回転が速いから。字も綺麗だし書くのも速いわ」

「さすがよく見ているな」

千駄堀せんだぼり君ほどではないわよ、ふふ」

「俺はただぼんやり傍観しているだけだけどな」

「そうなのね」

「それでよく村椿に怒られる」

「怒られているように感じるのね?」

「怒っているのではないのか?」

「言い方はきつく感じるかも知れないけれどたいていが愛ある忠告といったものだと思うわ」

「誤解されていると?」

「そうね。反感を持つ人も多いかもしれない。でも大崎おおさき君などはお尻を叩かれて喜んでいるみたいよ」

「あいつはM気があるな」小町先生に発破をかけられる俺みたいなものか。「クラス全体の勉強会の評判はどうなのだろう? あれも村椿が提案したみたいだけど」

「あれは自由参加なのよ。千駄堀君も適当にり分けて参加しているでしょう? それに……提案したのは三井みつい君と酒寄さかきさんよ」

「学級委員の立場だから提案した?」

「その学級委員になりたくてなったのだから同じことよ。B組をトップにしたい。クラス分けされた時にそう思ったでしょうね」

「三井が?」

「うふ」何だよその思わせ振り。

「小町先生かしらね」

 いや、今、生徒の顔を思い浮かべただろ。

「今年のクラス分けはいろいろと前例にないことがなされたの」ほう、興味深い。「私たちの学園には進学に特化した特進クラスはない。でもA組だけが成績優秀者を集めて構成される。これまで例外なく」

「例外がないなんて生徒にわかるのか?」

「あの順位表を見ればわかるでしょう?」

 確かに十年分くらい成績優秀者の順位表が校内サイトで見られる。年間総合順位もだ。

 なんでそんなものをいつまでも閲覧できるようにしているんだ?

「今年から中高一貫生と高等部入学生の混合クラスになった。例年なら中高一貫生の上位者十八名と高等部入学生の上位者十八名とでA組になる。でも今年はならなかった。年間総合順位二位の星川ほしかわ君はH組になったわ」

 それはあいつが変人だからじゃないのか? H組は別名「変人組」と呼ばれている。

「お前と渋谷しぶやもA組にならなかったな」俺はスマホで校内サイトを見ていた。「俗に言うS組十傑が六人外れているな」

 中高一貫生の上位十名のうち六人がA組に入れなかった。中高一貫生だけでなく、高等部入学生の上位者も何人かA組に入っていない。

「S組十傑なんて言葉、知っているのね、千駄堀君」

「妹に散々聞かされているからな」

「と言って、完全にランダムにクラス分けしたのでもないのよ。A組は全員上位五十名に入っているし、やはり特別なクラスであることは変わりない。A組の優秀さを維持しつつ成績優秀者を他のクラスにも振り分けた、と考えられているわ。

 またまた思わせ振り。早くその先を聞かせてくれ。

「紅茶、おかわりする?」

「ん、ああ、いただくよ」

 俺は空のカップを口にしていた。暫し話が途切れる。そのまま無かったことにされるのを俺は恐れていた。

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