俺、陽キャグループの中に坐る

 市民会館大ホールの出入口はたくさんあるが、最も正面玄関に近いところに二年B組一班がいた。日暮ひぐらし他女子三名だ。

「あ、村椿むらつばきさん、点呼、点呼」日暮は待ちくたびれたように村椿に声をかけた。「なんだ、千駄堀せんだぼりもいたのか。来てなくて探したよ。これで全員揃ったな」

 俺が誘導をしていたことは知られていなかったらしい。

 確かに、立っていたところが通過する生徒が少ないところで、俺も気配を消していたけど、そばに村椿も立っていてそちらに目が行くのだろうけど、所詮俺なんか興味ないのだと思った。

「先に中に入っていて。私は先生に報告してくる」

 村椿に言われて、俺たちはホールに入った。

 席はクラスごとに区画が決められていたが、そのクラスのエリアなら自由に坐って良かった。ただ、ギリギリだったので空いている席は少ない。点呼を待っていた日暮たちはすでに荷物を置いて確保していたようだ。

 どこが空いているか探していたら前薗まえぞのに呼ばれた。

「千駄堀君と村椿さんの席は確保しておいたわ」

 クラス最上位カーストが集まった中に俺は入れられることになった。

 右が通路に接した端の席で左隣は前薗、前薗の向こうに渋谷しぶや、渋谷の左に村椿の席が確保されていた。

 良かったな、村椿。渋谷の隣じゃん。

 俺は何だか居心地が悪かったが、隣に前薗がいるだけの端の席だったのでまだ良かった。これが、こいつらの真ん中に置かれた席なら吐いたかもしれない。

「あれ、千駄堀じゃん、誘導やってたの? 知らなかった」後ろの席は渋谷前薗グループで最もうるさい大崎おおさきだった。

「私と一緒に立ってたわよ」村椿がたった今、点呼報告を終えて来た。

 俺は立ち上がって村椿が中に入る道を空け、前薗もそれにならった。

 ただ渋谷だけが足を引っ込めたものの坐ったままで、自分の前を村椿に通らせるつもりのようだった。

 村椿は「ごめんね」と言いつつ渋谷に尻を向ける格好で渋谷の前を通りすぎようとした。

 その村椿の腰を渋谷は両手で掴んだかと思うと、そのまま引き寄せて自分の膝の上に村椿を坐らせた。

「俺の膝の上で観るか? 麗菜れいな

「ちょっと恭平きょうへい、冗談はよしてよ」村椿は顔を赤らめて渋谷から逃れ立ち上がった。

「ヒューヒュー」大崎が冷やかす。

 村椿は大崎を睨みつけてから自分の席に着いた。

 前薗は苦笑し、俺は呆気にとられた。

 間近で見るリア充・陽キャグループの戯れ。目に毒だ。

 渋谷だからできるボディタッチだ。さりげなく女子の頭をなで、背中や腰に手をまわす。きっと大崎だったらしばかれるだろう。

 両手に花状態の渋谷は観劇中も両隣の村椿と前薗の手を握っているのだろうか。そんなことを考えたりしたが、劇が始まって間もなく、俺は寝てしまった。

 毎日夜更かしをしている俺は午後になると眠くなるのだ。決して名画座オリオンの芝居が悪いわけではない。テレビで見かける有名な俳優も出ていたし、市民会館で観られる芝居としては滅多にないものだったと思う。それでも俺は寝てしまった。

 途中で目が覚めたのは後ろから大崎の寝息が聞こえてきたからだ。いびきよりは小さいが俺たちの周囲には十分聞こえる。

 ひょっとして俺も大崎みたいにいびきをかいていたのか?

 何気なさを装って後ろを振り返ると、大崎の隣の三井みついという男子学級委員、そのとなりの酒寄さかきという女子学級委員も目を開けてはいたが眠そうにしていた。

 俺の隣の前薗はしっかりと前を見ていた。さすがはプリンセスだ。しかし彼女の左肩には渋谷の頭が寄りかかっていた。

 渋谷は静かに寝ていた。

 そして渋谷の左にいる村椿が落ち着かない様子で芝居を観たり渋谷を見たりを繰り返していた。

 村椿はきっと自分の肩に寄りかかれば良いのにと思っていることだろう。彼女は、肘掛けの上にある渋谷の左手にそっと手を置いていた。

 一方、前薗の両手は彼女自身の膝の上でしっかりと組まれていた。何とも上品な物腰だ。

 この六人が自由席になったときはいつも固まっている。俺だけが異端者だった。

 芝居の中身は頭に入って来なかった。

 感想文はどうしようか。

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