第4話 高校生自殺事件

2日目

事件が発覚して2日目。案の定ニュースは事件のことで持ちきりだ。

学校を責める声。教師を責める声。いじめをした生徒を責める声。少数だが、いじめ程度で自殺した生徒を責める声なんてあった。

すっかり、世間では杉野の死は自殺という見解が浸透してしまっている。

捜査本部は明日にでも自殺ということを公表するそうだ。

というのも捜査は一晩明けて大きく進展していた。

1つは行方不明だった2人の内1人である櫻井健が遺体となって発見されたらしい。

死因は毒に因るもので、その毒が菊池と同じものであった。遺体も菊池が見つかった山の近くの廃屋にあったらしい。そしてそこには

「みんなで死にます」と書かれた遺書があった。

今、筆跡鑑定が行われているが、捜査本部の雰囲気は自殺だ。

「神門さん。」

丸が駆け寄ってくる。

「これ、菊池くんと櫻井くんの事件資料借りてきました。」

「さすが、キャリアだな。」

「いや、普通に頼んだら貸してくれましたよ。」

「そうか?俺が言っても出ししぶるんでな。」

パソコンを起動し、USBを挿す。一番上に表示されていたのですぐに分かった。

「僕にも見せてくださいよ」

と丸が隣に座る。

2人で画面をスクロールさせること30分。周りの人がドタバタと忙しなく移動するがこの2人にはお構いなしだ。

一通り画面を見た後、疑惑が確証に変わった。

「やっぱり、そうですよね・・・」

どうやら、丸も気がついたようだ。

「神門さん。2人は自殺ではなくてあの、水元さんに殺されたのではないでしょうか?」

俺は黙って丸の発言を促す。

「資料によると菊池くんと櫻井くんの2人には同じハンドクリームがついていたそうです。そして、菊池くんと水本さんからした匂いの素は多分これじゃないですか?

おそらく、水元さん、いいえ、水元は金曜日の夜、なんらかの理由で杉野くんの死を知ったんです。そして、かねてからいじめていた3人を問い詰めたんです。そして、水元が用意した毒で自殺するように促したんです。ハンドクリームはその時に付着した。」

「2人の場所は離れていたが?」

「きっと、人前で死ぬのはいやだったから毒だけ取って、別々に飲んだんですよ。

2人の発見現場が近かったのもそういう理由でしょう。」

「ハンドクリームの一致が偶然だと言われたらどうする?」

「偶然の可能性はありますけど、3人が同じものをしていたらきっと、これは・・・」

「金曜日に2人にハンドクリームを貸してあげましたと言ったら。」

「ハンドクリームの匂いがあんなに残っているなんておかしいですよ。だから、あれはかなりの量を使ったか、近くで長時間一緒にいたかのどちらかでしょうし。そうなると、一緒にいたんじゃないですか。」

「2人の死亡推定時刻は土曜の夜21時から23時ごろだが・・・・」

「3人は旅行に行っていましたし、水元も準備に手間取ったんですよ。」

ふむ。俺とほぼ同じ推理。推理としては悪くない。説明はできる。だが、証拠はなく、想像の域をでてはいない。それをコイツも分かっているようで、水元に会いに行くと行って会議室から出ていこうとしている。

俺もついていこうとした時、携帯が鳴った。俺は走りながら携帯を取り出す。

相手は佐渡だった。

「もしもし、神門だ」

「お、随分出るのが早いな。」

「前置きはいい、要件はなんだ。」

訊かなくとも要件など分かっている。

「ああ、昨日話した。もうひとりのいじめられていたやつだが」

思った通りだ。もう分かるとはさすがというべきか。

「名前は松本蓮。例によって24Rだ。」

「松本蓮・・・」

「ああ、あの学校の裏掲示板を調べた。顔写真もあってな。それで、教師に手当たりしだい絞ったら若い教師が白状したぜ!」

「お前・・・」

自信満々に言うことではない。

「そんな方法、生徒にはしてないだろうな。」

「ああ?生徒?それならまだ、始まってもいないぞ。」

「何!そうなのか?てっきり、俺はしたものだと思っていたが。」

「遺体が発見された時、まだ生徒は来ていなかったからな。休校にして教師だけ取り調べてたわけよ。行き詰まりそうなら生徒も対象だろうが、思いの外上手く進んでいるからな。」

「でも、お前、生徒の会話を聴いたって・・」

確かにそう言っていたはずだ。

「多分、休校だって知らずに来たやつだろうな。正門にいた時に話し声が聞こえたのさ。いや~どこでだれが聞いてるかわからないから迂闊なこと喋れねえな。

あ、松本だが、休校ってこと知って遊びに行ったらしいぜ。」

と言いたいことだけ言って電話をきりやがった。

本部にいたこともあり、本部長で指揮を取っている、沢村に内容だけ告げた。

そうしたら、「もう知っとるわ!」と・・・・・佐渡のやつ覚えてろよ。


丸とともに水元の家に向かう。彼女は学校から離れたの都市部のマンションに一人暮らしとのことだ。杉野のマンションより豪華である。

「こんなマンションに一人暮らしとはな」

「やっぱ、セキュリティーとか考えてるんじゃないですか?」

マンションの売り文句が防犯、防音対策完璧です。だったはずだ。

マンションの入り口のインターホンで部屋番号603を入力する。

しかし、反応はない。

「おかしいですね。学校に訊いたら謹慎中だって話でしたけど。」

そこに宅配員が出てきたためロビーへの扉が開いた。

そのまま、中に入り603号室に行く。

インターホンを押す。また、返事はない。

「どうしましょうか?」と丸がドアノブに手を掛けた瞬間。

水元の部屋が開かれた。

部屋からは香水の匂い。それもかなりキツイ。思わず、鼻をつまみそうになる。

「中々キツイっすね。」

部屋に入っていく。大きなテーブルにソファー椅子は4つ。仕事机も大きい。その上には毎週土曜日に丸印がしてある。

とても一人暮らしの生活形態とは思えない。引き戸を開けると高そうな服が多くある。

お世辞にも整っているとはいえない。まるで、慌てて服をここに掛けたようなそんな感じ。

「ありました。」

丸が歓喜をあげる。例のハンドクリームを見つけたらしい。

「あとは毒物ですけど」

「それも見つけた。」

服に隠されたダンボール、その中に入っていた。

「決まりですね。」

「ああ、問題はこれが違法捜査だってことだが・・・」

「あっ・・・」

丸は今頃になって気づいたようだ。

「す、すみません」

丸が頭を下げる。

「まあ、キャリアの力でなんとかしてくれや。」

と他力本願待ったなし。

「あ、電話です。すみません。

はい、丸です。え、え?・・・・・・・水元が行方不明?」

なんだって・・・・

思わず電話を奪う

「おい、水元が行方不明ってのはどういうことだ。」

電話を掛けてきた若手刑事によるとどうやらこういうことらしい。

水元は昨夜の夜、教育委員会の取り調べから開放されたあと、話し合いが校長や教員と共に行われるはずだったそうだ。だが、いつまでたっても彼女は現れず、電話をしても留守電のままだったらしい。昨日はそれで解散になったそうだが、今朝になっても現れない。家に向かっても、返事がなく、中にも入れないというわけで警察に連絡

したらしい。

これから、水元の家の捜索が行われるらしい。捜索なら既にはじめているが、これで上手く誤魔化せそうだと思いながら電話を切る。

「これで、ごまかせますね。」と笑いながら丸が声を掛けてくる。

「とにかく、これで水元に関する調査が進むだろうな。」

「ええ、この物証を見れば、捜査方針も変わるでしょうね。」

菊池と櫻井二人の自殺の線は消える。だが、3人目大輪田の行方が分かっていない。

二人が死んでいる以上彼も生きていないだろうという見解を本部ではたてていた。

それに異論があるわけではない。むしろ、これだけ話題にもなっているなかで行方不明の方がおかしい。

ふと、丸を見ると本格的に部屋を物色していた。

机の引き出しや化粧台の中、タンスの中に、冷蔵庫まで。これではまるで、泥棒と同じだ。警察官だと言わなければ即通報だろう。

「丸。おまえ、泥棒と立場入れ替わってんぞ。」

「ハハ、すみません。つい、本格的に捜査できるって思うと今までの遠慮とかなくなっちゃって。」

まったく・・・・大義名分を手に入れるとすぐ・・・これだ。まあ、捜査熱心って見方もできなくはないがな・・・・。

「!!神門さん。これ、・・・・・見てください。」

柄にもない大声。それはどこか悲鳴にも似たなにか。そのよほどのナニカを見つけたのか。声のする方に駆け寄っていく。

丸が居たのは寝室。丸はベッドの側で顔を青ざめて座り込んでいる。いや、腰を抜かしているという表現の方が正しいだろう。ベッドの下に手を入れる。瞬間、

ベトっとしたナニカが手に触れる。さらに手を動かすと次は金属に手が当たる。触り慣れたソレでナニカがすぐに分かった。しかも、その数は一つや二つではない。思い切ってそれらを引っ張り出す。

「っっひ!!」隣から怯えた声がきこえる。

現れたのは血液で赤くなったナイフの類。黒ずんでいるものもあるが、一際目立つのが柄本まで赤く染まったソレだ。

「どうやら、捜査を本格的にしないといけないみたいだな・・・・」


応援に来た捜査官に状況を伝える。はじめはなんでお前らが?と不思議そうだったが、アノ現場を見てそんなことは遠くに行ってしまったらしい。

鑑識や科捜研など多くの捜査官が出入りするようになった。

気がつけば日は沈みかけていた。




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