第2話 高校生自殺事件
丸と共に取り調べ室の代わりになっている教室に行く。ちょうど、杉野の担任である水元清子
先生が取り調べを受けているようだ。髪を後ろに降ろし、目や鼻立ちも整っている。男子には人気が出そうだなというのが、最初の印象だ。理知的な見た目通り、化学、物理を教えているらしい。
「どんな様子だ?」
外にいる同僚警官、佐渡に話を訊く。
「けっこー面白そうなことになってるぜ。校長、教頭はいじめを認めない姿勢を取ってた。まあ、当然だよな。仮にも進学校で、ここ一体じゃ伝統ある学校だからな。それが、あの、担任。取り調べが始まるなりすぐに、いじめを認めやがった。」
「なん・・・・だと。」
普通、いじめなんて認めないものだ。学校のブランドを汚すことにもなるし、なにより、自身の責任問題になりかねない。
「へえーすごい先生ですね。」
「水元の話を校長たちに言ったら、大激怒。さっきまで、60のおっさん、オバサンがヒステリックな悲鳴あげててな。そりゃ、面白いのなんのって。]
「・・・・・・」
「どうかしましたか?神門さん?」
丸が質問をしてくる。
「ナニカ狙いがありそうだと思っただけだ。」
「ああ、それには同感だ。」
隣のベテラン刑事も同意をする。
「ええ~そうですか?僕にはただ正直に話してくれる良い先生に見えますけど。」
「なら、そんないい先生がどうしていじめに気づいていながら放っといたんだ?」
佐渡は厳しく突き放すように指摘する。
「それは・・・なにか言えない事情があったんじゃ・・・ないです?」
「その事情を明らかにするのが俺たちの仕事だ。な、神門?」
「・・・・・そうだな。佐渡」
取り調べ中の水元の顔を見る。堂々とした受け答え。刑事の質問に対して、淀むことなく水が流れるようにスラスラと答えていく。・・・まるでこの事態を想定していたように。
「っっあ!」
不意に丸が大声をあげる。コイツがこういう声を出す時は大概ロクなことがない。
「どうしたんだ?大声だして」
俺の代わりに佐渡が訊く。
「いや~~、それが、ハハ。杉野君の家に行くことになっていたのを思い出しまして。」
「「・・・・」」
慣れたことではあるが、思わず声を失う。何も言わずに目で語りかける。
「行ってきます・・・」
と急いでこの場から立ち去った。
「行かなくていいのか?神門。一応相棒だろ?」
「分かっている。一人にすると何するかわからんからな。」
俺も丸の後を追わなければならない。
「ちょっと待て。」
神門が呼び止める。行けと促しておいてなんだろうか?
「今回のヤマ単なる学校のいじめ問題で終わると思うか?」
先程まで声に含まれていた陽気さは消えている。同期だから分かるが、この様子の佐渡になるのはよほどの難事件の時だけだ。
「・・・・・・まだ、わからん。」
これは正直な感想だ。杉野が自殺したのか他殺なのかもわからない。それにいなくなった3人のこともだ。まだ、パズルのピースは出揃っていない。だが、それは論理的に考えた場合のこと。それとは似て非なる────直感。これがこの事件の裏を見つけろと叫んでいる。
「そうか。それとさっきな面白い話を生徒から聞いた。
なんと、あのクラスいじめられていたのは1人じゃないようだ。」
「なんだと!?それじゃあ、もう一人はだれなんだ?」
「それはわからん!」
話を聞いたんじゃないのか
「生徒が話をしているのが聞こえたんだよ。盗み聞きってやつだ。」
「まあ、こっちは俺たちで見つけておく。というか検討もついているしな。それじゃ、行って来い!」
なるほど、俺たちの知らない情報があるからこそ、このヤマにつて感想を求めたってわけか。負けず嫌いというかなんというか・・・・とはいえ、もう1人は気になるが佐渡なら見つけるだろう。そしてそれからの展開は予想がつく。ならば、俺は俺ができることをしよう。
丸に追いついて、共に杉野の家に向かう。
家族4人暮らしで、母親一人、妹が二人のようだ。
父親は二年前に病気で亡くなったようで、それからは高校生ながらアルバイトをしていた。 部活には入っていなくて・・・
と丸が杉野について分かっていることを教えてくれる。
短い間にここまで調べていたとは思わず、感心する。
「まあ、これでも刑事ですからね。」
とやや勝ち誇ったようなポーズをする。
そんな話をしている間に杉野の家に着く。学校から車で10分ほどしたところのマンションに住んでいるらしい。
部屋の前に着き、インターホンを鳴らすと中からは60代後半のおばあさんが出迎えてくれた。
どうやら、杉野にとっては母方の祖母に当たるらしい。連絡を受け家で待機しているそうだ。
早速、彼の部屋に案内してもらう。
部屋は男子高校生の部屋とは思えないほどキレイにしてあった。部屋には教科書や参考書などの勉強関係のものと部活の野球関係のものしかない。父親が亡くなった時に遊び道具などは売ったらしい。それほど、お金に困った生活をしているようには思えない。住んでいるマンションは高級とは言わないまでも、ボロアパートではない。立地からしてそこそこの家賃がするのではないだろうか。丸はベッドの下を中心に漁っていたがなんの成果も得られませんでした~という顔をしている。
彼女に杉野について話を訊いたが、最近は会っていないらしく様子はわからないようだ。
ただ、彼女はなにもわからないと前置きをしたうえで
「あの子は絶対に自殺なんてする子じゃありません。」
そう言い切った。その声が妙に耳にこびり付いた。
「目立った収穫はありませんでしたね。」
丸が車に乗り込み開口一番告げる。
「彼の部屋を見たが、いじめられていた痕跡がなかった。」
「ですよね。なんか遺書とかいじめられて苦しいです。みたいな記録でもあればよかったんですけど。」
そう不満を漏らす。完全に無駄足をしたと思っているのだろう。
「だが、これで分かったことがあるじゃないか。」
「ええ、彼がいじめにあっていなかったことがわかりましたね。いじめにあっていない人間が何も痕跡が残っていないなんておかしいですからね。」
自信満々にきっぱり断言する。
「いや、それはどうかな?俺はむしろいじめにあっていた確率の方が高いと思うぞ。」
「え!?だって先、いじめられていた痕跡がなかったって。」
「今どき、身体を痛めつけるだけがいじめではないだろう。」
SNSを通じたいじめだって増えているどころかそういう目には見えない、いじめが主流だと思う。
「だから、厄介なんだよ。」
車を発進させる。ここから県警まで20分。捜査会議に間に合うかどうかギリギリの時間だろう。月曜日の昼過ぎということもあり、交通量は多い。
ふと、胸ポケットの中の携帯が震えていた。丸に携帯を渡す。
「はい。丸です。」
そこは神門の携帯ですというところではないか。
「はい。はい。わかりました。ありがとうございます。伝えておきます。
え?今ですか・・・」
どうやら進展があったようだ。運転を再会させる。
「神門さん。」
「なにかわかったか。」
「はい。本部から2つ連絡がありました。1つは杉野くんの死亡推定時刻は金曜日の20時から23時の間だそうです。死因は頸部圧迫の窒息死。目立った外傷は無いため、やはり自分で首を吊った可能性が高いようです。」
「なら、自殺でほぼ決まりだな。」
「・・・・・2つ目は杉野くんをいじめていた三人の行方ですが・・・」
「分かったのか?」
信号が赤に変わる。車を停車させる。
「一人だけわかりました。名前は菊池海斗。杉野くんと同じクラスです。」
「それで、どこにいるんだ?家か」
「いいえ、─────── 彼は遺体で発見されたそうです。」
信号は青に変わっていたが・・・・発進させることはできなかった。
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