春の匂い

少女が駆けていく

まっすぐの道を駆けていく

遠くへ、遠くへと


少年は少女を追う

付かず離れずで追っていく

手は届きそうにない


桜に注ぐは陽の光

道に落ちるは花の影

いたずらな南風が並木を走ると、

真白の波が春を舞った


少女は立ち止まって言った

「雪みたい」

少年も立ち止まって言った

「妖精みたい」


揺蕩たゆたう髪に花弁が降りる

広げた細い手に純白が積もる

それは次第に溶けて、少女も花の渦に消えていく


少年は駆けた

めいいっぱい駆けた

けれども、またもや風が少女を隠し、

淡い色が少年の身体からだを吹き抜ける


少女は言った

「もう、雪は溶けたのよ」

少年は叫んだ

「溶けていたって構わない」

しかし桜が舞いをやめると、既に少女の姿はなかった


少年の頬に、清く澄んだ花弁が一輪

温かな光に輝くそれは、少し熱くて、

ほのかに少女の残り香がした

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