第20話 海賊出現

「海賊! 海賊ー!」

 マストの上にのぼっていた水夫が大声を出して笛を吹いていた。

 鋭い音が空気を切り裂く。


「おぉ、海賊……」

 フィリップは船倉でエレノアやクルエラたちとくつろいでいたが、「海賊」という響きに興味を覚えて甲板にあがった。


 空は薄暗く、灰色の絵具を黒地にぶちまけたような色合いをしていた。

 海はそれほど荒れてはいなかったが風が強くなりはじめているようだった。

 船員たちがロープを操り必死に操帆している。


「お客人!」

 赤銅色の肌の船長がかけよってきた。すでに抜き身のナタのようなものを右手に持っている。


「船長」

「海賊ですぜ……」

「手伝おうか?」

「うぅむ……そうですな、見たところ冒険者の皆さんでしょう?」

「だね」

「船上の戦いは陸上とちょっと違いやす。必要になったら呼びますんで邪魔にならないところにいてくだせぇ」

「……わかった」


 船長は大声で指示を出し始めた。

 船員が船倉から盾を出して甲板のふちに並べ始めた。


 フィリップは船倉へ降りる階段の手すりにつかまった。潮風と揺れが激しくなってきたからだ。

 うねりはじめた波間の向こうに黒い旗をかかげた船が見え隠れする。

 こちらと同じく日本マストで三角形の帆をいくつか並べた帆船だ。


 帆の数はこちらよりも多いように見えた。

「いかんな、このままだと風上に回り込まれる……」

 船長がぶつぶつとつぶやく。


「大丈夫か?」

「まだ大丈夫でやす……よーしお前ら左舷大砲準備!」

「合点承知!」

 水夫たちが大声で答える。


 どういう形で日本語になっているのかはよく分からなかったが、少なくともフィリップにはそう聞こえた。


 しばらくして左側の舷側がも爆音とともに猛烈な黒煙を吹き出した。

「うわー!」

 フィリップは思わず叫んだ。

 音もすごかったが何しろ煙がものすごい。


「牽制にしかなってないでやすが……」

 船長が言う。


「あの旗はここらへんを荒らしまわっている女海賊かもしれれないでやす」

「女海賊?」

「帆のひとつが真っ赤でやしょう?」

「そういえば……」

「よーしお前ら、左舷の砲装填したらもう一撃! 撃てぇ!」

 

 船長はフィリップと話しながらまた大砲を撃たせた。

 ものすごい黒煙とともに灼熱に焼けた砲弾が飛んでいくのがちらりと見えた。


 黒い旗をかかげた海賊船は波間にふっと消える。

「……もしかすると遠ざかってくれればいいんでやすが……」


「面白そうなことになっているな」

 白金色の長髪をたなびかせてエレノアが甲板にあがってきた。

 ゆれる甲板の上で器用にバランスをとって立っている。

 

 平然とした彼女の様子に船員たちが感嘆の声をあげる。

「ちょっとぉ、他のみんなはダウンしてますよぅ」

 クルエラが船倉から声をあげる。揺れの少ない後方の船倉であったが、思ったよりも激しい海の様子にみな動けなくなったようだ。


 突如、マストの上の船員が大声で叫んだ。

「船長! 連中、いつのまにか右舷に回り込んでいます!」

「なんだと!」


 船長が見た方向をフィリップも見る。

 なんとさっきよりもかなり近い距離に黒い旗をかかげた船がいる。

 というよりほぼ並走している。


「砲撃がきやす! お客人がたは船倉へ!」

 次の瞬間轟音とともに煙につつまれた。

 フィリップはその衝撃で船倉に転げ落ちてしまったのだった。



――フィリップの現在の所持金

変更なし


・現在の所持金

金貨102枚(8,160,000円相当)

銅貨2枚(800円相当・財布)

全部が黄金色になった小刀

 

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