第19話 海賊の島
「えぇ、海賊関係の
帝都レザンブロンの冒険者ギルドの職員が驚いたように声をあげた。
どちらかというとパン屋が似合いそうな少し太った青年だ。
実際、こうした
「ちょっと調べてみますが、海モノの依頼って人気ないんですよね」
「ほうほう、どうして?」
フィリップが聞く。かたわらにはいつも通り弟子のクルエラ。
「そりゃまぁ準備に時間がかかるとか、船賃だとか、船を仕立てるとなると馬車よりお金がかかるとか、そもそも航海自体が危険というか」
いくら魔法が発達しているこの世界でも、航海は現代のようにはいかないらしかった。
「それで、あるんですかぁ?」クルエラが聞く。
「うーん、あることはあるけど……」
青年はばらばらと羊皮紙の束をめくった。金属製のリングで束ねられている。
「これとかどうかな? 北の海の付近に出没する海賊討伐
「それぇ、ちょっと安くないですか?」
クルエラが食いつく。
「うーん海賊討伐はね……本来は、荷主とか船主がお金を出し合うので、一昔前は結構報酬額が高かったんだけど、いま西側って、西風の魔王が出没するから船がそもそもあんまり出せないし、
異世界なのにずいぶんとせちがらい話だ。
「もっとも魔王が理由で不景気ってのが異世界らしいけども」
思わずフィリップは口に出してしまう。
「イセカイ?」
冒険者ギルドの青年がきょとんとした表情になる。
「あ、いや……」
「まぁねぇ、割りにあわないよねぇ、もっとも海賊なんて結構ため込んでたりするから、アタリの海賊なら儲かるって噂だけどねぇ」
青年は羽ペンをふりふりため息をついた。
「よし、そのクエストやろうかな?」
「えぇー船賃とか、人を雇うとか考えたら結構厳しくないですかぁ?」
「いまどうせ研究費の許可待ちだから暇だし、大丈夫じゃないかな?」
「うーん……確かに研究費の許認可は、後は待つだけですけどぉ」
「決まりだ、そのクエスト、もう少し詳細を教えてくれないかな?」
フィリップは青年に言った。
――北海航路は帝都レザンブロンよりもかなり北、北部諸州でほそぼそと使われている航路だった。そこからさらに北に行くと海が凍結しているとか、海棲型の魔物が暴れているとかで、そもそも進めないとのことだった。
主に漁業とか、海獣の革、海からしか採取できない魔法鉱石などの輸送が主な商業だ。
「うわぁー--潮風がものっすごい気持ちいいですね!」
クルエラの赤毛が潮風をはらんでふわふわとゆれた。
「うーむこれはなかなかだな」
勇者エレノアはもしゃもしゃと乾パンをむさぼりながら手すりから海を眺めていた。
「いやいやほんとうに」
ロークも目をほそめて水平線のあたりをながめている。
もちろん軽量の帆船なので
海賊討伐
今回は海賊討伐ということもあり、勇者エレノアに加え、呪い師のローク、女傭兵のレジーナ、ハイエルフのステラを再度雇用することにした。
帆船は2本マストの縦帆で、風をはらんだ白い帆は船からはみだすほどに大きかった。ロープを水夫たちが操作し、時折帆の向きを変えている。
「横幅は思ったより狭いんだなぁ」
フィリップは甲板を走り回る水夫たちを見ながらつぶやいた。
全長は確かにそこそこあるが、幅はせまく感じた。
全長は雰囲気、50m走の距離の半分……25mくらいにみえた。屋根のついた小型の船橋がついており、女性の多いフィリップ一行には特別に航海士の部屋を割り当ててくれた。
「そろそろ飯ですぜ!」
赤毛で赤銅色の肌をつやつやと輝かせた大柄な船長が呼びにきた。
「おぉーありがたい」
ちょうど腹も減っていたところだ。
食事は船尾の船長室で食べることになった。
大量のマッシュポテト風の料理と乾パンが運ばれてくる。
マッシュポテトには肉の風味のついたソースがたっぷりとかかっていた。
(じゃがいも……っぽい味だなぁこれ)
フィリップはフォークでつつき、触感を確かめた後に思い切りフォークで口に運んだ。
似たような芋なのだろう。風味もほとんど同じだ。
この世界には銃も魔法も共存している。
服装の感じから地球でいうところの17~8世紀相当の文明のようだった。食卓も比較的明るく食器もそろっている。
「うまいなこれ錬金ぶふひぼふぉ……もぐもぐ」
気が付いたらエレノアが半分以上食べていた。
呆然とする船長。
特にコメントをせずに黙々と食べる一行。
こうしてその日はだんだんと過ぎていったのだが、明朝、鋭い笛の音で起こされることになるのだった。
――フィリップの現在の所持金
傭兵たちへの支払い 1人金貨4枚 合計 -12枚(前金)
荷物運び代(チップ)銅貨 -3枚
・現在の所持金
金貨102枚(8,160,000円相当)
銅貨2枚(800円相当・財布)
全部が黄金色になった小刀
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