第18話 節税と錬金術師と帆船
「いやぁ税金ってこの世界でも高いんだな」
フィリップは思わず愚痴をこぼした。
時刻は昼。帝都レザンブロンの石畳はごつごつしていた。
しかしそろそろ太陽……と言っていいのだろうか、元いた世界の恒星よりも微妙に青くて小さいような気がするが、とにかく太陽が落ちるのも早くなってきている。昼間でも寒くなってきているということは冬が近づいているのだろうか。
あまり難しいことはわからないが、だいたい太陽と地球の位置関係に似た惑星の上にこの世界はあるのだろう。
「このセカイ?」
隣を歩いていた弟子のクルエラが聞きとがめる。
「
「物事を知らないのは記憶喪失で済みますけどぉ……セカイってどういうことです?」
「いや言葉のアヤだよ」
クルエラは腕組みをしてううむとうなった。
「やっぱり先生……どこか違う場所に行っていたんですかねぇ? それとも……」
「違う場所……」
フィリップはギクりとした。
クルエラはじろりとフィリップを見た。
「先生……ひょっとして例の実験の時……」
「実験の時?」
「……いわゆるあれですか、記憶喪失になるだけでなく……ちょっと冥府の川まで行っちゃいました? 妄想的な……」
「あ、うん、そうなんだ、妄想とたまにごちゃごちゃになるんだ」
「やっぱり……先生もう少し休んだほうがいいんじゃないですかぁ?」
「そうは言っても研究費を稼いでおかないとな」
「何でですかぁ? しばらく遊んで暮らせ……いえ研究に集中できますよねぇ?」
「黄金売るにもトルヒーヨとかの協力が必要だし、怪しかったら買ってもらえない……」
「なるほどぉ……帝国の研究費をもらって活動している……という部分が重要なんですね」
「それはそうと」
フィリップはちらりと後ろを見た。
荷馬車と、荷馬車の上の革袋、荷車の上に乗った勇者エレノアがついてきている。
「やっぱり使いきれないよなぁ」
「ある使って支払い証明ができないと税金が凄いことになるんでしたっけ?」
「冒険者ギルドに寄付する手もあるらしいんだけど、このままだと臨時収入として40%近く取られるみたいなんだよね」
「ですか?」
「それで何か大きく使ってしまおうかと……そうすると、使った分は税金が減るし、資産も手元に残るしね」
「うーん帝都は何もかも高いですけどねぇ」
「例えばそのへんの家とかは?」
「そこそこの邸宅みたいなのなら金貨数千枚はしますよぉ、それに不動産は帝都の住民じゃないと買えないですよ、先生は港町ザンスケルに研究所・兼・家もありますから、引っ越すにしてもまずザンスケルで手続きしないと」
「そう簡単に引っ越ししたりできないんだね」
「居住許可もいりますからねぇ」
「せちがらいな……」
ふとフィリップは冒険者のことを思い出した。
「冒険者は自由に行き来したり、滞在してるんじゃないのか?」
「あぁー……たいていの街は滞在許可がなくても短期間なら大丈夫なんですよ」
「ノービザ滞在みたいなもんなんだね……」
「ビザ?」
「何でもない」
目的もなくふらふらと歩き、ふと花を売っている店の角をまがったとき、潮の匂いが運ばれてきた。
「お、海?」
目の前には緩い傾斜で下降していく道、そして並ぶ商店や飲食店、その向こうには大きな港が見えた。
「おぉー! 船だ」
「帝都の港は、正直ザンスケルよりもかなり大きいですよねぇ」
クルエラの髪がふわふわと潮風にゆれる。
「うむ、実は有数の軍港でもあるからな」
いつのまにか勇者エレノアは荷馬車を降りて2人の背後に立っていた。
フィリップたちの視線の先、海のほうには大小の帆船が並び、桟橋には大型の手こぎボートが多数並んでいた。
海は湾上になっており、港を閉塞するように砲台が突堤に並んでいた。
2本マストに縦帆をいっぱいに張った船がちょうど湾に入ってくるところだった。
「船かぁ、船とかどうだろう?」
「何がですかぁ?」
「買うのさ」
「錬金術師殿……」
エレノアがやれやれと肩をすくめた。
「船は高いぞ……」
「そうなんだ?」
何となくフィリップのイメージでは、こうしたファンタジー世界の帆船はクエストなどでもらえるものという認識があった。
「金貨で数千枚はかたい……以前、風の神殿が船を買おうとしたことがある。いくら何でもこのあいだの冒険ではそんなには稼げていないだろう?」
フィリップはにやりと笑った。
「アテはある」
――フィリップの現在の所持金
特に変化なし
・現在の所持金
金貨114枚(9,120,000円相当)
銅貨5枚(2,000円相当・財布)
全部が黄金色になった小刀
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