おっさん船を買う

第17話 凱旋と黄金の剣

――深淵の魔導士を討伐したところ、たまたま・・・・廃城に眠っていた黄金の剣・・・・を入手した幸運な冒険者たちの噂は冒険者ギルドの中ですぐに広まった。


「なかなかいいものを手に入れたわねぇ」

 雑貨商のトルヒーヨはしげしげとその剣を見つめた。幅広の長い剣で、柄は短い。


 は長身の男性だが、べっとりと化粧をして盛りに盛っているオネェ系だ。


 数日前、無事に深淵の魔導士討伐に成功したフィリップ一行は帝都レザンブロンに戻ってきていた。荷馬車の上には雑貨に混じって燦然ときらめく黄金色。


 フィリップはそのままトルヒーヨの雑貨店に乗り付けて黄金の剣を引き渡したのだった。


「うーん……第三紀か第四紀かしらねぇ、形式はそれなりだわねぇ……実用品っぽく作られているのが残念ね。芸術性はないわ。でもまぁこれがまるまる黄金なのは間違いないわねぇ」


 その黄金の剣はサヤも黄金だった。


「ただ鋳造技術は素晴らしいわ……」

 トルヒーヨはうっとりと黄金の刀身を見つめた。


「黄金は鋳造技術が大変なのよ。鋳造や冷却とかね。少なくとも……」


 トルヒーヨは不思議な微笑を浮かべてフィリップの目を見た。


「人間ではあり得ないほどの技術を持った鍛冶屋がいたのかしらねぇ、あの廃城に?」

「そうなんだ、びっくりだよ。深淵の魔導士が事切れる前に教えてくれたんだ」

 とフィリップ。


「まぁアタシはこれをさばく自身があるわ。そうね……サヤ込みなら重さ12kgで、黄金のインゴットとだいたい同じだから、黄金の価値だけなら金貨750枚(6000万円分)くらいはあるわ」


「おぉぉー!?」

 フィリップは目をむいた。

 最近、貨幣の価値を覚えてきていたのだった。

 もと金融関係のサラリーマンだったフィリップはお金の話が大好きだった。


「た、だ、し」

 トルヒーヨは指を横にふった。


「あぁー金貨30枚の返済とか、手数料とかだろ?」

「違うわよ! これはすさまじい鋳造技術よ。その技術をあわせると、倍の価値はあるわ」

「ええー!」

 

 倍ということは日本円で1億円以上だ。


「こんだけあったら金貨30枚はおまけ、と言いたいところだけど、それはしっかりとるわよ」

「分かった、後は任せた」

 

 そう言ってフィリップはくるりと背を向けて帰ろうとした。


「待ちなさいよ」

「まだ何か用が? 実は腹が減っていて……」


 トルヒーヨははぁーっとため息をついた。

「こんな凄いもん預けて、普通の商人だったらバっくれるところよ」

「あっそうか」

「とりあえず預かり証、委託販売契約書を作るわよ」


 トルヒーヨは羊皮紙を奥から出し、カリカリとペンを動かし始めた。


「まさかランチと黄金を天秤にかける貧乏錬金術師がいるとは思わなかったわ」

「ははは……運がよかったかな?」

「それと、手付払っとくわよ。こんだけのブツだから、とりあえず金貨100枚、例の出資金はすでに引いておいたわ」


 トルヒーヨが布袋をどさっと置いた。なかでじゃらりとコインが音を立てる。


 フィリップは金融系サラリーマンの本能でコインを数え始めた。


「抜けてるかと思ったら案外しっかりしてる部分もあるのね……ほんと不思議だわねぇ」

 トルヒーヨはやれやれと肩をすくめる。


「ばっちり金貨100枚あるよ」

「そりゃそうよ、さて契約書もできたわ」


 トルヒーヨは契約書を渡してきた。

「すまん、色々ありがとう」

 フィリップはちらりと契約書を見て、数字の部分は確認した。

「あ、そうそう……」

 トルヒーヨは何事かをフィリップに伝えた。


 フィリップは雑貨店を出ると宿の「眠るクジラ亭」に向かう。

 一階の酒場のドアをくぐると、見慣れた一行が円卓を囲んでいた。


「よーうフィリップ先生」

 ハミッシュがすっかり上機嫌で麦酒の入った木製のジョッキを持つ手を挙げた。


「むにゃむにゃ」

 勇者エレノアはつっぷしてすでに寝ている。横には葡萄酒の空きビンが4本は転がっている。


「例のあれ、売れた? 偽物じゃなかった?」

 これはレジーナ。にやにやと笑顔を浮かべている。


「うん、売れたけどすぐには現金にはならないみたいだ」

「ということは本物」

 どうみても10代前半くらいの少女にしか見えないハイエルフのステラも木製のジョッキを手にしている。


「良かったですねぇ」

 まじない師のロークはちびりちびりと葡萄酒を飲んでいるようだ。こちらは酒が弱いのか顔が真っ赤だ。


「我々への支払いも良かったし……」

 とローク。


 フィリップはこれを見越して少し多めに給料をはずんだのだった。


「それにしても深淵の魔導士……生かしておいて大丈夫だったんですかね?」

 ハミッシュはガブリと麦酒をあおった。


「まぁ……黄金の剣をくれたし、取引は成功ってことで。討伐したことにすれば彼も闇商人ギルドに追われないだろ?」

「そりゃそうですがね。それにしてもあんなオンボロ塔に住んでおいて、まさか奥にあんなものを隠していたとはねぇ」


 深淵の魔導士と取引したフィリップは、彼を奥に連れて行き、そして、取引の証と称して黄金の剣を持ち帰ってきたのだった。もちろんマスターレベル錬金術でただの古びた鉄の剣を黄金に変えただけだ。


「ところで……」

 レジーナが言う。


「顔色悪くない?」

「あ、やっぱりわかる? 実は……このままだと税金で半分近く持っていかれるらしいので何か買わないといけないんだ」

「???」


 円卓を囲む一同の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいた。


――フィリップの現在の所持金

傭兵たちへの支払い 1人金貨4枚 合計 - 16枚

眠るクジラ亭宿泊料 3人分 14日 金貨2枚 合計 -2枚

エレノア飲食代 ワインと食料たくさん 金貨1枚 合計 -1枚

合計) -19枚


委託販売手付金 金貨100枚


差し引き)金貨 +81枚


・現在の所持金

金貨114枚(9,120,000円相当)

銅貨5枚(2,000円相当・財布)

全部が黄金色になった小刀





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