第15話 廃城とオンボロ魔道士
「えぇーあれが雨上がりの塔ですかぁ? なんかイメージと違う」
クルエラが"塔"を見上げて声をあげた。
「オレは何回か来てるけど、塔っていうのは廃城の中で残った塔のことだからなぁ」
傭兵のハミッシュが腕を組んだ。
「あたしも初めてだけど、なんか廃棄された灯台とかのイメージあったわ」とレジーナ。
「ですよねぇ、なんかもういかにもダンジョンって感じの孤塔を連想してたんですけどねぇ」
その塔はぽつんと建っているわけではなかった。峡谷の一角に建つ廃城の塔のひとつだった。峡谷は湿気が多くどんよりと曇っている。
「……ほとんど崩れているけど、これ廃棄寸前なんじゃ?」
フィリップが素朴な疑問を口にする。
「廃棄寸前というか廃棄されたというか、これ入って大丈夫なのかしら?」
レジーナがため息をつく。
「ははっ心配するな、前に来た時はもう1つ塔が建っていたけどよ」
「全然安心材料じゃない……むしろ危険」
エルフのステラはぼそりとつぶやいた。
「まぁこのあたりは峡谷だからか知らんけど、雨がよく降るんだよ。それで人の手が入らなくなったらよぉ、どんどん内部の
塔経験者のハミッシュが解説する。
「だから雨上がりの塔ってわけですかぁ」感心したようにクルエラ。
「こういう誰も住みたくないところに住むような悪人ってだいたいお金持ってないのよねぇ」レジーナはぽりぽりと後ろ頭をかいた。
「結局お金なんだ?」
とフィリップ。
「まぁねぇ、そりゃすんごい死霊とか抱えこんで悪事を働いているような、近くの領主とかじゃ歯が立たないような奴はそもそもすんごいとこに住んでるのよね」
「すんごいところ?」
「例えばどっかの領主から買った城館とか」
「そんなの可能なんだ?」
「お金さえあれば帆船でも軍隊でも買えるわよ」
「軍隊も?」
「軍隊はさすがに連隊単位で売ってるから簡単には手が出ないけど……」
「誰が買うの?」
「そりゃあ貴族のドラ息子とかに連隊をあてがって将校ですってことで売り出す時とか」
「あるところにはあるんだなぁ」
「ねぇ」
話し込むフィリップとレジーナ。
「さて……割り込むようで悪いんだが、雇い主のフィリップさんたちはどうする? 一緒に来るか?」
ハミッシュは両手剣を背中の鞘から抜き放った。
「先生、どうしますぅ?」
「うーん……まぁ行くかぁ」
ここに残っても、もしクルエラと2人で襲われたりすると何もできない。
それよりは意外に腕が立ちそうな彼らと一緒にいったほうが良さそうだ。
「じゃあ行こうか」
ロークが短めの杖の先端にぽっと灯りを灯した。
小さな光がゆらゆらと揺れているが、わりと明るい。
街なんかに置いてある鉄塔の上で光る玉というのはこの魔法なのかもしれない。
廃城の扉に近づくと、何やら物音がする。木の大扉は腐って地面にばら撒かれている。
「おっ来るぞ」
ハミッシュが両手剣を上段に構えた。
扉の奥からどっとコボルトが数体飛び出してくる。手に手に湾刀を持っている。
「
前線に出たハミッシュとレジーナの間からロークが杖に左手を添えて魔法を放った。紫色の光がほとばしり、コボルトの動きが少し遅くなった。
「よーし行くぜ!」
ハミッシュが突進して両手剣を振り下ろす。
その剣が微妙に届かない距離でレジーナも片手剣を振り回してコボルトと戦っていた。
時々エルフのステラが何か電撃のようなものを出してコボルトを焦がす。前のような大魔法ではない。「ぎゃー」とかあまり犬っぽくない悲鳴をあげてコボルトが転がる。そこをすかさずレジーナとハミッシュが対処していった。
フィリップはその様子を感心して眺めていた。
「いやぁすごいなあ、こんなの日本では見られなかったなぁ。本物のファンタジーだなぁ」
「ニホンってなんですかぁ、先生」
クルエラが耳ざとく聞いてくる。
「そういう国があるんだよ……」
普通のサラリーマン・新井として働いていた頃がもう遠い過去のようだ。
「よし、入り口は確保したぞ、塔に向かおう」
ハミッシュが肩で息をしながら言う。
「よし、突入!」
フィリップの号令でハミッシュを先頭に廃城に入る。
「さっきのコボルトの群れ以外はほぼ何もいないな」
ハミッシュが警戒しながら進む。
廃城の中は思ったよりも廃城だった。
崩れ落ちた壁。朽ちた絵画。はぎとられたカーペット。
コボルトの食事後なのか、鍋で煮たっている大麦か何かのおかゆ。
(先生……これは相当な貧乏魔道士ですよ、赤字になりませんかねぇ?)
クルエラがぼそぼそと話しかけてくる。
(大丈夫……)
「こっちだ!』
塔への通路が発見され、最後の抵抗なのか2〜3匹のコボルトが出てきた。
レジーナとハミッシュが手早く始末する。
塔を登り切ると強い魔法の気配がする大扉があった。
「開けるぞ……」
ハミッシュガ力を込めて扉を開け放った。
そして……
――フィリップの現在の所持金
特に変化なし
金貨33枚(2,640,000円相当)
銅貨5枚(2,000円相当・財布)
全部が黄金色になった小刀
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