第14話 雨上がりの塔
エルフのステラが放った雷の魔法はコボルトの群れをほとんど一掃した。
動揺するコボルトに傭兵のレジーナとハミッシュが切り込んで倒した。
「このくらいの怪我ならすぐに治るよ」
まじない師のロークがレジーナとハミッシュの怪我を直す。
ステラは疲れたのか、荷台の上のクルエラの膝の上で眠り込んでしまった。
「この子かわいいですよねぇ」
クルエラがまじまじとステラを見つめる。見た目は人間で言うと10歳前後だろうか?
「エルフって本当にいるんだなぁ」
フィリップは
「いまさら知らないんですかぁ?とは言わないですけどぉ。エルフはレアっちゃレアですけど結構その辺にいますよぅ」
クルエラが言う。
「で、例によってエルフって見た目にかかわらず凄い年齢なんだろ?」
「んー、まぁ、私たちヒトから見るとよくわかんないですけどねぇ」
「私もエルフ族を見るのは初めてだ。あまり西方にはいないからな」
勇者・エレノアが干し肉をかじりながら言う。フィリップはだんだんと食料の残量が気になってきた。
「ただ、その子の魔法力はものすごかった。見た目よりもかなり高いレベルにあると思う。攻撃魔法でいうとレア級はあるんじゃないか」
「そうすると少なくとも70歳とか……? こんなにかわいいのにぃ?」
クルエラがステラの毛をすいた。
「その子の年齢は不詳よ」
傷の治癒を終えたレジーナが会話に入ってくる。
「不詳?」
「あたしとローク、その子はもうかれこれ3年は一緒に旅してるけど、まだよくわかってないのよ」
「何の目的で?」
「それは……」
レジーナはちらりとロークを見た。
「あたし達も
「ほう、それは興味深いな」とエレノア。
「別の魔王?」
「勇者とか魔王って結構いるんですよぅ」ぼそぼそと、クルエラがフィリップにささやく。
「そ、そうか別の魔王ね」
ごほんと咳払いをしてフィリップは座り直した。
「まぁ旅するのにも路銀がいるのでこうやって冒険者というか傭兵やってるのよね」
「ところで……」
治療を終えたハミッシュとロークがこちらにやってきた。
「そろそろレヴィアタン峡谷だが、目的地は"雨上がりの塔"でいいんだっけ?」
ハミッシュが羊皮紙に書かれた地図を広げながらやってきた。
彼は樽から葡萄酒を木製のタンブラーにそそいだ。それをさらに別の樽の水で薄めてガブリと飲む。
「雨上がりの塔といえばこの国の首都にも近いし、廃塔だろ? 攻略済みのはずだ。 なんだってそんなところに怪しげなやつが住んでるんだ?」
「たぶんだけどこの国は西風の魔王で手一杯なのよ」
レジーナが言う。
「あたしもとある国の騎士だったから分かるけど、余力がなくなってきたら、大事な前線以外がほったらかしになるのよ」
「そういえば街道でもモンスターが出たな」
フィリップはエレノアが両断した魔物を思い出しながら言った。
「つまり鬼のいぬ間に何とやらってやつか」
ハミッシュはまた葡萄酒をタンブラーに注いだ。今度は水で薄めずにまたガブリと飲む。
「うめぇ、俺の地元の
(鬼のいぬ間にって……本当は何て言ってるんだろう?)
フィリップは素朴な疑問を思い浮かべた。
日本語として彼は認識しているが、どうも違う気がする。何か便利な認識の仕方があるのだろう。
「さて……出発するかい?」
ハミッシュがくぃっと道の先を示した。
街道からは外れているので石畳ではないが、何となく人や馬車が通れるように伐採されてはいるし、道の端は小石が敷き詰められている。
「わかりやすい道を言ったらまた待ち伏せにあうんじゃないのか?」
フィリップが疑問を口にした。
「まぁ脇道があればな……だけど茂みや森の中を荷馬車を連れて行くのは結構きついぜ」
「くれば撃退すればいいさ」
エレノアが事もなげに言う。
確かに石や茂みだらけの森などは人間が通れるようになっていない。まして荷馬車は無理だろう。どうしても街道や道を進まざるを得ないというわけだ。
「まぁもうあと1〜2日だよ。峡谷は広いし、何かいれば分かるさ」
ロークが地図を見ながら言う。
「じゃあ急ごうぜ」
ハミッシュがニヤリと笑う。
一行は"雨上がりの塔"に向かって進むのだった。
――フィリップの現在の所持金
特に変化なし
金貨33枚(2,640,000円相当)
銅貨5枚(2,000円相当・財布)
全部が黄金色になった小刀
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